被害者は本当に「ファン」だったのか?
ただ私は、被害者にも一定の責任はあると考えている。たとえば、偽造された私の免許証は、住所が代官山のタワーマンションになっている。私がそんなところに住んでいないことは、私のことを少しでも知っていればわかるはずだ。
音声メッセージも、私のラジオを聴いているリスナーであれば、違和感を覚えるはずだ。
何より、ふだんから投資のリスクを叫び続けている私が、大儲け確実の投資など勧誘するはずがないのだ。
被害者の多くが、私のファンだから、ついつい騙されてしまったと言うのだが、正直言って、本当のファンなのか、疑わしいと思う。それは、私と同様に、投資のリスクを警告し続けている荻原博子氏の偽物に騙されてしまう被害者がたくさんいることからもわかる。
投資への「アドバイス」を鵜呑みにすべからず
もうひとつの問題は、最近の投資熱だ。
警察庁も「SNSの普及に加え、投資への関心が高まっていることが影響しているのではないか」とみている。政府自体が「投資元年」「貯蓄から投資へ」と投資推奨をしているのだから、投資熱が高まるのはある意味当然だ。
しかし、株価の裏付けは、企業の純資産なのだから、経済成長率以上の平均株価の上昇は、通常はありえない。だから「数ヵ月で10倍」といった高利回りを提示された段階で「それはおかしい」と思わないといけないのだ。
また、投資のアドバイスをするためには、金融商品取引法第29条に基づく登録を受ける必要がある。誰が登録しているのかは、金融庁のホームページで確認できる。もちろん私は登録などしていないから、投資助言業の資格のない私から投資のアドバイスと言われた途端に詐欺を疑わないといけないのだ。もちろん、もっとも悪いのは詐欺師たちだ。
警察庁も、2024年3月5日に全国の警察に対して、専門の捜査班を作って実態解明を進めるよう指示した。ただ、犯行が海外で行なわれているとみられることから、犯人にたどり着くためには、海外の捜査機関との強力な連携が不可欠だ。
現にこれだけの被害が出ながら、いまだに1人の犯人にもたどり着いていない。国会は、SNS型投資詐欺に対抗するための新法を早急に整備していく必要があるだろう。
森永卓郎
経済アナリスト
獨協大学経済学部 教授
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