趣味をビジネスにすることの厳しい現実
健一さんは経理の仕事を続けながら、副業として陶芸作品の販売を始めることにした。しかし、最初はなかなか売れず、展示会に出品しても関心を持ってもらえないことが多かった。娘さんの手ほどきでオンラインショップを開設してみたが、アクセス数が少なく収入もほとんどなかった。
また、陶芸に集中するあまり、本業の経理の仕事に支障をきたしはじめた。あるときには、信頼してくれていた上司から「最近、業務態度が怠慢にみえる」と叱責される始末。
陶芸の材料費や道具の費用がかさみ、家計にも負担をかけてしまった。とうとう家族からも「副業なんてやめて、本業に専念したら?」という声が上がり、健一さんは自分の選択に悩む日々が続いた。
カフェオーナーとのコラボで見えた新たな道
そんな時、健一さんは地元のカフェのオーナーである高橋さん(仮名)と出会った。高橋さんは、地元のアーティストとコラボレーションしてカフェの空間を彩りたいと考えていた。彼は健一さんの作品に魅了され、「カフェの一角で作品を展示販売してみませんか?」と提案したのである。
健一さんはこの提案を受け入れ、高橋さんのカフェで作品を展示販売することになった。初めての展示の日、健一さんは緊張しながらも、カフェの一角に自分の作品を並べた。訪問客がどのような反応を示すのか、内心不安でいっぱいだったが、初日の夕方、一人の女性がコーヒーを飲みながら、じっと彼の作品を見つめているのに気づいた。
その女性はカウンター内の高橋さんに「この作家さんはどんな方なんですか?」と尋ねた。高橋さんが、すかさず目くばせして合図をする。健一さんは思い切って自己紹介し、作品に込めた思いや制作過程を説明した。
女性は興味深そうに話を聞き、「とても気に入りました。私の家にも飾りたいので購入します」と言ってくれた。健一さんにとっては、これがカフェで初めての販売だった。この経験は、彼に大きな自信を与えることになる。
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