お客様の「声なき声」に着目
お客様をフォローする体制はつくれましたが、顧客満足度を高める努力は終わりません。次に行ったのはお客様相談係の新設です。
目的はお客様の声なき声を拾い上げることです。こちら側が一生懸命お客様に接しているつもりでも、お客様によっては不満足であったり、また、人間ですから相性の問題などもあるはずですので、その声を拾い上げるのです。
お客様はよほどのことがない限り、担当の営業、工事監督、職人、『まごの手宅配便』サービススタッフに不満を直接言いません。「言うことによりサービスや工事の質が下がってしまうのではないか」「次回から顔を合わせづらくなる」「かわいそうかな」など、我慢をするのです。
このストレスが積み重なり満足度を低下させ、最悪なケースでは退会に繋がってしまうことがないように、直接利害関係のないお客様相談係を設け、お客様を定期的に巡回します。
相談係は社長直轄部署としているので、どんな細かいことでも報告が上がってきます。お褒めの言葉をいただければ社員に一声かける材料にもなりますし、細かい問題点であっても関係部署への徹底やその後の確認もできます。現場で何が起きているのかはできるだけ正確に把握したいのです。
相談係が集めてくるお客様の声は、たとえば「工事した際に植木鉢を移動したのに、そのまま帰ってしまったことがあった」とか、「入会説明でわからない部分があった」とか、様々です。
お客様もわざわざ電話してまで小言を言いたくないというレベルなのでしょうが、この小さなストレスをこちらから取りにいくことで業務改善が進みます。
報告は即日、遅くても次の日の朝礼で発表して改善策を考え即、実行に移していきます。この一連の流れを繰り返すことで同じ思いをされている声なきお客様の不満を減らすことができます。
「既存顧客を大事にする」営業マンを評価する体制に
そしてもう一つの目的が、社員全体(私も含む)の接客の質の低下を防ぐことです。
人は、体調がいいときもあれば悪いときもあるでしょうし、少しぐらい手を抜きたくなることもあるでしょう。そんなときに、こんな対応をしていたらお客様相談係が来たときに文句を言われてしまうかもしれないと思えば、少しは気合が入ります。
「社員のことを疑うのか!」とか「相談係がいなくても質の高いサービスをするのは当然のことだ」と思われるかもしれませんが、現実として起こる問題に対応する仕組みの一つです。
営業マンの評価方法についても、「やはり既存顧客を大事にすべきなのではないか」という思いから生まれたものです。
仕事を長く続けられる要因として、人のために役に立っていると肌で感じられることは大きいのではないでしょうか。頼られることは時にはプレッシャーにもなるでしょうが、その分、少々辛いことがあっても頑張るモチベーションになります。
契約をいただいたそばからブツブツと顧客との縁を切ってしまうような仕事では、遣り甲斐がお金だけになってしまうようで、長続きもしないように感じます。
経営者自身は、新規開拓をさせているほうが精神的には安定すると思います。営業が顧客のところに顔を出していると、油を売っているのではないか、契約にもつながらない無駄な話をしているだけなのではないかと不安になるのではないでしょうか。
私が第一線で営業をしていた当時は新規開拓ばかりで、紹介をいただけるような関係づくりを意識して営業をすることはしていませんでした。しかし今では積極的にお客様のところに顔を出すことを奨励しています。
目指すは新規開拓から、常に新しい顧客を紹介していただけるような関係づくりの営業スタイルにシフトすることです。
昔と違い気合と根性でガンガン契約をとる時代ではありません。お客様の信用を活用させていただいたほうが、新規開拓で自分を売り込むより遥かに信用していただけます。ご紹介いただいたお客様に入会案内をさせていただければ、ほぼ全員に会員になってもらえるのです。
すぐにリフォームの依頼をいただけることもありますし、リフォームしたばかりで当分受注が見込めない方もいらっしゃいます。それでも当社の営業マンはがっかりしません。
リフォーム需要が来るまでは営業マン自身がフォローするのではなく、圧倒的に支持されている『まごの手宅配便』の作業スタッフが引き継ぎ、継続的なフォローをしてくれるからです。そして、そのお客様からやがてリフォームの相談が来ることがわかっているからです。と同時にこの方からも『まごの手宅配便』の紹介先をいただけるのです。
新規開拓をやりながらも時間を見つけて会員のお宅に顔を出す、時間の無駄をなくし将来のリフォーム見込み客を獲得する仕組みです。
この新たな営業スタイルを実現するためには、既存顧客のフォローの部分を評価する仕組みが必要になりました。「顧客とのアポイントに対してプラス評価をする」や「営業のプロセスを評価する」といった評価法を紹介しましたが、それはこういう経緯から誕生したものです。
お客様に会いに行くこと、お客様の声や思いを吸い上げること、そういったプロセスを経営者が認めることで、営業マンたちの活動にも力が入ります。
ちなみに、リピーター獲得に重きをおいたことで、従来の「受注ノルマ」は意味をなさなくなりました。今あるのは、各営業マンが自主的に設定した「目標」だけです。