大手出版社の編集担当者が漏らした“裏事情”
『ザイム真理教』の出版を拒絶した大手出版社の編集担当者に、私は機会があるごとに、なぜダメだったのかを聞き続けた。そのなかの一人がとても正直に事情を説明してくれた。
「担当としてはやりたかったのだが、経営トップの判断で却下された。今の出版不況のなかで、税務調査に入られたら、会社の経営そのものが立ち行かなくなる。会社を守るためには断念せざるをえなかった」
日本の税制では、何を経費として認定するかが、国税調査官の裁量に任されている部分が大きい。だから、真面目に申告をしていても、追徴をすることは容易なのだ。
税務調査の刃は、メディアに登場する有識者にも向けられる。知人の大学教授は、税務調査を受けて数千万円の追徴金を取られた。不当な追徴だと抵抗したら、「だったら重加算税を課しますよ」と、個人では絶対に支払えない追徴額を口にしたという。
個人からそんな追徴をできるはずがないと思われるかもしれない。
しかし、仕掛けは簡単だ。大学教授が講演などを頼まれて出張をしたとする。もちろんそのときの旅費や宿泊費・飲食代は全額経費として申告する。ところが、その業務に1%でも私的な部分があったとすると国税は全額を否認できるのだ。
私はほかの人とちょっと違っていて、講演で地方に行っても、仕事が終わったら、どこにも寄らずにすぐに駅や空港に向かう。ついでに観光をすることはほとんどない。
だが、私は路面電車が好きなので、路面電車が走っている街では、必ずスマホで電車の写真を撮っている。だから、私的な部分が1%もないのかと言われたら否定できない。それは事務所の家賃や電話代も一緒だ。事務所から私的な電話を一度もかけたことのない人はほとんどいないだろう。
そうした事実が発覚したら、電話代も全否認だ。そうした手段があちこちに存在するため、個人事業者の場合は生活を破綻させるほど、会社の場合は会社を倒産させるほどの追徴金を取ることができる権力を国税は持っている。
それだけではない。税務調査だといって連日事務所に居座られると、業務そのものが立ちいかなくなってしまうのだ。
もちろん財務省を批判したら、全員が税務調査を受けるわけではない。だが、見せしめを作ることで、全員が萎縮し、忖度するようになってしまう。
だから、“賢い”メディアや有識者は絶対に財務省を批判しない。少なくとも核心的なところは突かない。
それどころか、「少子高齢化が進むなかで、日本経済を守ろうと思ったら、つらいけれども消費税の段階的引き上げに耐えていかないといけない」などという白々しいウソをつき続けるのだ。それが税務調査から身を守り、メディアに出続けるための必要条件だからだ。
森永 卓郎
経済アナリスト
獨協大学経済学部 教授
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