(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍を機に地方移住への関心は高まりました。しかし、実際に移住してみると、理想とのギャップに悩む人も少なくないようです。本記事では、阿部さん(仮名)の事例とともに、地方移住の理想と現実についてFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。

医師と農家の兼業

地方でのんびりとと考えていた阿部さんでしたが、休みの日でも医院に掛かって来た電話が自分の携帯に転送されて往診に出掛けるなど、対応をしなければならないこともしばしばあります。ここまでは医師としての仕事なので想定の範囲内でした。

 

しかし、問題は続々とでてきます。

 

前の院長のころから長年勤務している看護師はやり方が違うといって意見が衝突することもあり、ベテランの看護師が離職してしまうなど、経営面での問題を抱えていました。

 

また、早朝から農作業を行い、作業をこなしたあと、診療所での診察に向かう日も多くあり、そして新しい土地での農業ですので、手探りで自ら調べながら失敗することも多々ありました。

 

ベテランの看護師が離職し、もともと看護師も2名しかいなかった医院でしたので、1日に診察できる患者さんの数が大幅に減ってしまいました。地域の人からは「なかなか診てもらえない」「待ち時間が長過ぎる」といった声や、急いで診察するようになっていたために会話時間も少なくなり「冷たい」などの悪評が立ち始めたのでした。

 

大病院の医局の緊張感から開放されて、農業をしながらのんびりと田舎の町医者で医師としての人生を全うしたいと思っていた阿部さんでしたが、現実は自分で経営を考え、医院の業務を仕組化していかねばならず、まったく違うものになってしまったのでした。

 

「前の生活に戻りたい……」そんなふうに思うようになってしまった阿部さんでしたが、資産をほとんど費やして医院と自宅、田んぼを買ったために手元の資金もありません。

 

年金も繰り上げして受給しているため、月額18万円程度、妻の早紀さんはまだ受給していない状況です。自分はどうしたらいいのかと途方にくれていたのでした。

地元住民からの意見

そんなとき、医院に通う地元で農家を経営する人から「先生、農家は医者やりながらできる仕事じゃないよ。医者やってくならもっと自分の医院のことなんとかしないと、自分の医院がゴタゴタしている先生なんかに心配で頼れないよ」と言われたのでした。

 

阿部さんにとってはとてもキツイ一言で、「身を削りながら地元の人のために働いてきたのに……」と、大きなショックを受けたのでした。

 

しかし、この言葉がきっかけとなり、阿部さんは農業はほかの人に任せ、医院の仕事に集中することにしたのでした。

 

これまでハローワークに求人を出すだけだった看護師の採用も、しっかり採用ページを作成し、広告活動を行ったことですぐに採用することができ、以前のようになかなか予約ができない、患者さんを長時間待たせるということが少なくなってきました。

 

また、医療法人を設立し、何十人も採用して経営している後輩に連絡を取り、クリニックの経営の支援を求め、予約のシステム化やDXを行うことで作業の時間を減らすことができました。これにより、以前のように患者さん一人ひとりとしっかり向き合う時間を創ることができたのでした。

 

土地だけを地元の農家に貸すようにしていますが、自分も農家の大先輩から教えてもらいながら少しずつこの地での農業も覚えていくことができるようになってきました。

 

一時は全財産を使い経営の不安と移住先の住民との人間関係に悩まされることになった阿部さん。しかし、地元住民の一人のキツい一言がきっかけで意識が代わり、想い描いていた生活とは少し違いますが、充実した日々を送ることができるようになりました。

 

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