(※写真はイメージです/Pixabay)

銃撃事件を経て変わった、別人のようになったと方々から指摘されるドナルド・トランプ氏。実は演説に使用する「語彙」にも大きな変化がありました。その1つが「win」という単語の出現頻度です。指名受諾演説の報道では「WIN, WIN, WIN.」というシーンが印象的に切り取られていますが、演説全体では「win」の使用頻度は激減しており、その使い方も以前と異なっているのです。英語コーチング・スクールを営む三木雄信氏が解説します。

「トランプ氏は銃撃事件で変わった」

今回、トランプが暗殺未遂事件から奇跡的な生還を果たしたことで共和党大会での大統領候補演説は大変な盛り上がりを見せました。

 

また、暗殺未遂事件の前と後でトランプの演説の内容や雰囲気が変わったとの指摘もされています。そこで私は、実際にどのように演説の内容が変わっているのかを、「単語」の出現頻度の観点から分析することにしました。

 

比較したのは、共和党の候補者選びが本格スタートしたアイオワ州での演説(2023年12月)と、事件後初の演説となった指名受諾演説(2024年7月)の二つです。

 

分析の手法としては、それぞれの演説で使われている単語の出現頻度を探るというものです。ただし、どのような文章でも頻出する「the」「and」「you」などの一般頻出語は出現頻度順の対象外としました。

 

その結果、非常に興味深い点が見つかりました。

銃撃事件後、実は「win」の出現頻度が激減。使い方も変わった

分析結果は次の通りです。

 

まず、今回の指名受諾演説で最も使われた3つの単語は、1位「America」(20回)、2位「country (17回)」、3位「great (16回)」の3つの単語です。また、アイオワ州演説での上位3つの単語は「people」(51回)、「country」(37回)、「great」(34回)の3つの単語でした。

 

このことから、MAGA(Make America Great Again)というトランプのキーメッセージは、今も昔もトランプにとって最も重要なメッセージであることは変わらないと言えるでしょう。

 

一方、アイオワ州演説と比較して今回出現頻度が増減している単語がいくつか見つかりました。この変化を見れば、トランプがどう変わったのかわかるはずです。では具体期に見てみましょう。

 

まず、指摘したいのはアイオワ州演説では20回も頻出し強調されていた「win」の激減です。しかし、指名受諾演説ではわずかに3回(実質は1回)使われているだけです。アイオワ州演説では、次のように使われています。

 

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We have to win we have to get out and we have to initially caucus.

(私たちは勝たなければなりませんし、抜け出さなければなりません、そして最初に党員集会をしなければなりません。)

 

And if you run, I'll support you. And you're gonna win.

(そして、もしあなたがやるなら、私はあなたを応援します。そして、あなたは勝つでしょう。)

 

I think they almost never win because people don't like that.

(人々はそれを好きでないのだから、彼らはまず勝てないと私は思う。)

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このように、トランプはひたすら、「自分たち」が勝つか、「彼ら」が勝つかということ、つまり「共和党」が勝つか、「民主党」が勝つかというということを主たるテーマとして、しつこいほど繰り返し話をしていました。

 

しかし、一方で、今回の指名受諾演説では、次のように使っただけです。

 

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To all of the forgotten men and women who have been neglected, abandoned, and left behind, you will be forgotten no longer. We will press forward, and together, we will WIN, WIN, WIN.

(無視され、見捨てられ、置き去りにされた忘れ去られた男女の皆さん、あなたはもう忘れられることはありません。私たちは前進し、一緒に勝ち、勝ち、勝ちましょう。)

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この「win」の使い方はアイオワ州演説とはまったく違っています。それは、「無視され、見捨てられ、置き去りにされた忘れ去られた男女の皆さん」が主語となっているからです。言い換えれば、アイオワ州演説のように「自分たち」、「あなた」、「彼ら」が勝つかという「誰」が勝つかではなく、「すべてのアメリカ人」が勝つという使い方になっています。つまり、党派対立を深める使い方ではなく、統合を強調する「win」の使い方だったのです。

 

次は逆に今回の指名受諾演説で激増した単語は、「leadership」です。アイオワ州演説では、1回も使われていません。しかし、今回の受諾演説では6回も使われています。それは、このような用例です。

 

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It is time to start expecting and demanding the best leadership in the world, leadership that is bold, dynamic, relentless, and fearless.

(今こそ世界で最も素晴らしいリーダーシップ、大胆でダイナミックで粘り強く、恐れないリーダーシップを期待し必要とする時が来たのだ。)

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この「leadership」をトランプが今回多用したことは、分断されたアメリカを一つにまとめていくリーダーシップが自分にあることを印象づけたかったのだと思います。これは、トランプが銃撃を受けたことによる変化の一つかもしれません。

 

まとめると、単語の出現頻度によりトランプの考え方について次のように変化したと言えると思います。

 

MAGA(Make America Great Again)というトランプのキーメッセージは変わらない。しかし、銃撃事件後は、トランプは党派対立を煽る「win」を使うことは避けて「すべてのアメリカ人」が勝つという文脈のみで使うように変化。さらに、自分こそが「すべてのアメリカ人」を率いる「leadership」を持つと主張するように変化していたのでした。

米大統領選は新局面に突入、今後も「発言」に要注目

バイデン大統領が撤退した民主党では、カマラ・ハリス副大統領を新たな大統領候補に指名することが事実上確実となりました。ますます、トランプとカマラ・ハリスの発言について注目し分析をしていきたいと思います。

 

 

三木 雄信

英語コーチングスクール「TORAIZ」代表

 

1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部経営学科卒。三菱地所(株)を経てソフトバンク(株)に入社。27歳で同社社長室長に就任。孫正義氏のもと、多くの米国IT企業とのジョイントベンチャーのプロジェクト、「ナスダック・ジャパン設立」「日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)買収」「ソフトバンクの通信事業参入」などのプロジェクトで、プロジェクト・マネージャーを務める。

トライズ株式会社代表、2015年に英語コーチング「TORAIZ(トライズ)」を開始。日本の英語教育を抜本的に変え、グローバルな活躍ができる人材の育成を目指している。

著書に、『世界のトップを10秒で納得させる資料の法則』(東洋経済新報社)、『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごいPDCA』(ダイヤモンド社)、『【新書版】海外経験ゼロでも仕事が忙しくても「英語は1年」でマスターできる』『ムダな努力を一切しない最速独学術』(ともにPHP研究所)ほか多数。

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