「How are you?」と聞かれたら「I’m fine.」…じゃないの!?
さて、筆者はトライズという英語コーチングスクールを経営しているのですが、トライズには、アメリカ・カナダ・イギリス・オーストラリア・ニュージーランド・南アフリカなどの英語のネイティブ話者のコーチ(以下、ネイティブ・コーチ)が受講生に対して英会話のレッスンを行っています。
連載にあたって、我々日本人が中学以来の学習の結果、どうしても口に出てしまう「英語の教科書フレーズ」とそれ以外の互換性のあるフレーズについて選択肢にして、どれが適切か聞く形式で、200人近いトライズ在籍のネイティブ・コーチに対してアンケートを実施、103人から回答を得ました。
その中から連載の第1回で取り上げる「英語の教科書フレーズ」は“How are you?”です。
多くの日本人が英語を学び始めて最初に暗記して、それ以来繰り返し“I’m fine. Thank you. And you?”と言い返してきたと思います。しかし、この“I’m fine.”が英語のネイティブ話者にとってはいささかに奇妙に思えるという説があります。
そこで今回、トライズのネイティブ・コーチに本当のところを聞いてみました。
選択肢は次の4つです。
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1 I'm fine.
2 I’m good.
3 Pretty good.
4 その他(自由回答 )
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結果は次の通りとなりました(図表)。
最多回答は「I’m good.」 あらゆる面で程よいフレーズ
最も多かったのは、“I’m good.” で42%でした。この理由としては次のようなことが挙げられています。
「肩肘張り過ぎず、カジュアル過ぎずにちょうど良い」
「アメリカでは最も一般的」
「快活に聞こえる」
「“I’m fine.”はあまりに形式的過ぎてわざとらしい。“I’m good.”の方が正直そうな感じに思える」
「どんな状態でも使える」
「ポジティブ過ぎずにちょうどいい」
「都会だとヒップホップの影響で“I’m good.”と言う」
まとめると、“I’m good.”はフォーマルとインフォーマルの両方のシチュエーションで利用できて、ポジティブ過ぎることなく、形式的過ぎることもなく、あらゆる面で程よいフレーズだと言えるようです。
2番目は「Pretty good」 カジュアルかつ比較的前向きな感じ
次に多かったのが、“Pretty good.”でした。“I’m fine.”より多いのは私としても意外に思えます。“Pretty good.”が最も適切と答えたネイティブ・コーチは25%でした。その理由としては次のようなことが挙げられています。
「自然だし、自分が調子良くやっていることが伝わるから」
「一番よく聞くから」
「このような受け答えには主語はいらないから」
「軽くてカジュアルで簡潔だから」
「希望とかやる気が感じられるから」
「普通の人がGoodしか言わないから」
「ちょっとフォーマルじゃないけどフレンドリーな感じがする」
「友達には“Pretty good.”といつも言っている」
「近年、“I’m fine”という表現は、中立的な意味合いから否定的な意味合いへと変化している。文脈によっては、無関心に聞こえる」
総じて言えば、“Pretty good.”は使う間柄としては友達に近い距離感で、カジュアルに比較的前向きな感じを伝えることに向いているフレーズだと言えるようです。
3番目が「I’m fine.」 教科書的で無味乾燥なフレーズ
3番目に多かったのが、我々日本人が最もよく使ってしまう“I’m fine.”で17%でした。やはり少ないですね。なぜ最も適切かを見ていきましょう。
「最も言いやすく、一般的だから」
「ほんのちょっとの挨拶で、色々深く話をしたくないときに便利」
「簡潔で礼儀正しい」
「“fine”はあらゆる感情をカバーする一般的な表現だから」
「他の言い方だと一定のニュアンスがあるけど、“I’m fine.”には何のニュアンスもないから」
わざわざ、“I’m fine.”が適切でない理由を書いてくれた人もいました。「僕はイギリス人だけど、イギリスでは、“I’m fine.”って言うと、本当はあんまり調子が良くないのだけど、それについては話をしたくないというニュアンスで伝わる」とのコメントでした。
ひと言で言えば“I’m fine.”は、まさに教科書的で無味乾燥なフレーズだと言えます。場合によっては、よそよそしい疎外感を会話相手に感じさせることもあるフレーズと考えていいと思います。
その他の回答 イギリスでは「Alright」が一般的
以上が、選択肢として提示した3つのフレーズについての割合と最も適切な理由でしたが、それ以外の自由回答についても見てみましょう。次のような意見がありました。
「“Alright”がイギリスでは一般的。そもそもまず“Alright?”って疑問形で聞いて、答えも“Alright.”って返事しているよ」
「イギリス人として言えば、僕は普段は“Not bad, thanks.”と言っている」
「いつも変えているよ。話す相手との関係性とか状況とかに合わせて」
といったコメントがありました。どうやらイギリスとアメリカではフレーズの好みに違いあるようですし、色々と考えてフレーズを選んでいる人もいるようです。
今度から「I’m good.」と言ってみよう
今回の英語ネイティブ・コーチ100人に対する調査アンケートから得た結論を日本人の英語学習者向けにまとめると、次の3点になると思います。
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1. “I’m fine.” の代わりに“I’m good.”を。仕事でもプライベートでも、あらゆるシチュエーションで使うスタンダードとする。
2. 友人として親しくなってきた相手とのカジュアルな会話なら“Pretty good.”を使ってみてもよい。
3. イギリス人には、“Alright?” “Alright.”を代わりに使う。
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最後に付言すると、今回の調査は結果を明確にするために返答の後に相手の調子を聞く「And you!?」「How about you?」などを省略していますが、実際には相手への興味を示す意味でもぜひ相手の調子も聞くようにしてほしいと思います。
今後も、トライズ ネイティブ・コーチ100人に聞いた日本人が使う「英語の教科書フレーズ」についての真相をどんどんご紹介していきます。ご期待ください。
三木 雄信
英語コーチングスクール「TORAIZ」代表
1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部経営学科卒。三菱地所(株)を経てソフトバンク(株)に入社。27歳で同社社長室長に就任。孫正義氏のもと、多くの米国IT企業とのジョイントベンチャーのプロジェクト、「ナスダック・ジャパン設立」「日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)買収」「ソフトバンクの通信事業参入」などのプロジェクトで、プロジェクト・マネージャーを務める。
トライズ株式会社代表、2015年に英語コーチング「TORAIZ(トライズ)」を開始。日本の英語教育を抜本的に変え、グローバルな活躍ができる人材の育成を目指している。
著書に、『世界のトップを10秒で納得させる資料の法則』(東洋経済新報社)、『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごいPDCA』(ダイヤモンド社)、『【新書版】海外経験ゼロでも仕事が忙しくても「英語は1年」でマスターできる』『ムダな努力を一切しない最速独学術』(ともにPHP研究所)ほか多数。