【前回記事】日本人は知らない…ネイティブの8割が「How are you?」に「I’m fine.」とは返さない衝撃理由
“My name is X.”って堅苦しすぎる表現なの!?
筆者はトライズという英語コーチング・スクールを経営しています。トライズには、アメリカ・カナダ・イギリス・オーストラリア・ニュージーランド・南アフリカなどの英語のネイティブ話者のコーチ(以下、ネイティブ・コーチ)が受講生に対して英会話のレッスンを行っています。
本連載では、我々日本人が中学以来の学習の結果、どうしても口に出てしまう「英語の教科書フレーズ」を選び、それ以外の互換性のあるフレーズについて、どれが適切かアンケートを実施し、その結果から英語のネイティブ話者にとって「『英語の教科書フレーズ』がどう聞こえるのか? どう感じるのか?」を解き明かして行きます。
ということで、連載第2回で調査した「英語の教科書フレーズ」は“My name is X.”です。
英会話スクールに通い始めた人の多くが最初にぶつかる壁。その一つは、講師に対しての自己紹介ではないでしょうか?
特にオンライン英会話では希望する講師の枠が取れず、レッスンのたびに講師が変わるなんてこともしばしば。毎度のように自己紹介をしているうちに、ある意味、英語の壁を突破してしまい、“My name is X.”から始める自己紹介文だけは何も考えずに口から出るようになった人もいるかもしれません。
しかし、「本当は“My name is X.”は、堅苦しすぎてネイティブは使わない」という説もあります。真相を探るため、今回もトライズのネイティブ・コーチに聞いてみました。
選択肢は次の3つです。
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1 I'm X.
2 My name is X.
3 その他(自由回答 )
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結果は次の通りとなりました(図表)。
最多回答は「I’m X.」 こなれた表現ゆえに、くだけた印象
最も多かったのは、“I'm X.”で66.0%でした。理由としては次のようなことが挙げられています。
「短くてストレートだし、親しみやすい感じだから」
「“My name is X.”っていかに英語学習の初心者っぽい」
「フォーマルでも、セミフォーマルでも、カジュアルな状況でも使える」
「“My name is X.”って冗長だし、堅苦しい」
まとめると、“I'm X.”は、フォーマルからカジュアルな状況までカバーできるが、どちらかと言えばくだけた表現に聞こえるようです。
一方で「My name is X.」派も。理由は“聞き手への配慮”など
さて、次に“My name is X.”について見ていきましょう。“My name is X.”を選んだネイティブ・コーチは22.3%。“My name is X.”がより適切だと思うネイティブ・コーチもそれなりにいることがわかります。その理由を見ていきましょう。
「“I'm X.”よりも、いっそうまとまった、完全な文に聞こえる」
「より正確に聞こえる」
「“I'm X.”より少しフォーマルに聞こえるから」
これに類した感覚面から回答が多く見られました。加えて、文の構造を前提にして“My name is X.”がより良いとする回答も複数ありました。次のような回答です。
「最初に“My name”と言うことで、聞き手が“My name”から入って来る情報に対してより心の準備がしやすくなるように感じる」
「“My name”から始めることで、今から伝えるものが私の名前であると明確にするためです。“I'm X.”と言う場合には、名前でなく仕事が続く場合もありますし、例えばもし“I'm Diana.(私はダイアナです)”に続けて“I'm a teacher.(私は教師です)”と言ったら、同じ表現を2回繰り返すことになります。少し稚拙な感じになってしまいますよね。だからこのような場合には、“My name is X.”を使うべきだと思います」
こうしてみると、文の構造から“My name is X.”を使う方がベターだという考え方にも、意図や状況によって、合理性があるようにも思えます。
自由回答 文脈や状況次第では「It’s X.」や「X.」
さて、次には“I'm X.”でも“My name is X.”でもない回答を推薦したネイティブ・コーチも9.7%います。これらの回答についても見てみましょう。
「自分は、前後に何もつけずに名前だけを言うのが普通なんだけど」
「そもそもシチューションによるから決められない」
「文脈によるよね。フォーマルな場面では、“My name is X.”を使うことが多いけど、カジュアルな場面では、“I'm X.”を使うことが多いかな。」
「状況によるよね。例えば誰かに電話をかけるとき、相手が私のことを知らない場合は“My name is X.”と言うけど、その人がすでに私のことを知っていて、私の名前を明確にする必要がある場合は“It's X.”と言うよ」
このように、自由回答の回答は「文脈や状況による」という意見がほとんどでした。
また、「名前を言うだけ」と言う人もいました。確かに、海外の映画やドラマでは、名前を言いながら目を合わせて握手することで自己紹介をしているシーンもよく見ます。
しかし、我々日本人がこの真似をするのはなかなか難しいと思います。なぜならば、相手側としてもどんな自己紹介をされるのか予想していないので、リスニングも握手のタイミングを掴むのも難しい可能性が高いからです。何しろ相手にとって日本名は聞きなれないものですから、それが名前かどうかもわからず、ただ日本語を何かを言っているという理解しかできない可能性があります。ですから、まずは「名前だけ」という自己紹介は避けるべきでしょう。
また、電話での名乗りとして“It's X."が妥当な場合があるのはその通りです。
日本人にオススメの使い分け
以上のことを総合してまとめれば、日本人が英語を話すときには、「“My name is X.”はビジネスなどのフォーマルなシチュエーションで使う。プライベートなシチュエーションでは“I'm X.”を使う。また、電話で名乗るときは“It's X.”(もしくは“This is X.”)を使う。」を基本として、さらに可能であれば状況に応じて(例:表現の重複を避けるなど)使い分けるのがよいのではないかと思います。
以上が、私がトライズのネイティブ・コーチのアンケートを分析した結果です。皆さんの英語学習の参考になれば幸いです。
三木 雄信
英語コーチングスクール「TORAIZ」代表
1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部経営学科卒。三菱地所(株)を経てソフトバンク(株)に入社。27歳で同社社長室長に就任。孫正義氏のもと、多くの米国IT企業とのジョイントベンチャーのプロジェクト、「ナスダック・ジャパン設立」「日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)買収」「ソフトバンクの通信事業参入」などのプロジェクトで、プロジェクト・マネージャーを務める。
トライズ株式会社代表、2015年に英語コーチング「TORAIZ(トライズ)」を開始。日本の英語教育を抜本的に変え、グローバルな活躍ができる人材の育成を目指している。
著書に、『世界のトップを10秒で納得させる資料の法則』(東洋経済新報社)、『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごいPDCA』(ダイヤモンド社)、『【新書版】海外経験ゼロでも仕事が忙しくても「英語は1年」でマスターできる』『ムダな努力を一切しない最速独学術』(ともにPHP研究所)ほか多数。