令和の米騒動=“Reiwa rice riots“って正しい?
数週間前、筆者はスーパーに行ってみて驚きました。それはお米の棚が空になっていたからでした。しばらくするとテレビのニュースやネットニュースでもスーパーなどの小売店舗で米の店頭在庫が払底していることや、米が通常の数倍の価格で販売されていることが大きく報道されるようになりました。
また、一部の報道では、このような状態になった原因の一つとしてインバウンドの海外からの観光客が急増していることが指摘されていました。
このような現象は「令和の米騒動」とも呼ばれ、新米の季節になった今でもまだまだ解消していません。
そんな「令和の米騒動」について知り合いのアメリカ人に「日本では、海外からのインバウンド客増加が急増して「令和の米騒動 “rice riots”」になっているよ」という話をしたら、心外だとして反論されました。そこで“rice riots”についてニュアンスなどを調べてみました。
そもそも私が言った“rice riots”という言い方ですが歴史上の出来事の「米騒動」の直訳としては間違ってはいません。例えば、国立国会図書館のサイト(https://www.ndl.go.jp/modern/e/cha3/description06.html)でも「3-6 Rice Riots (Kome Sodo)」として書かれています。
しかし、外国人にとっては今の日本のお米をめぐる現状と“rice riots”の示す状況は異なるようです。なぜならば、そもそも英語で”riots”といえば、「民衆が制御不能に暴れまくる」という意味だからです。
例としてあげれば次のような感じです。
例1:Foodriot-食料不足や価格の高騰に抗議する暴動
「The country experienced a food riot due to soaring prices.」
(その国では価格高騰のため食料暴動が発生した。)
例2:Runriot-制御不能になる、自由に動き回る。
「The children ran riot at the playground.」
(子供たちは遊び場で自由に走り回った。)
例3:Colorriot-色彩が豊かで目立つこと
「The artist's latest work is a riot of color.」
(そのアーティストの最新作は色彩の洪水だ。)
しかし、今の日本で起きていることは、このような「民衆が制御不能に暴れまくる」というような事態ではありません。
「令和の米騒動」を “rice riots”と書かない理由
一方で、大正時代に起こった「米騒動」は大変な騒ぎだったようです。
当時の米騒動では派出所や商業施設への投石、電車や自動車の破壊、遊郭への襲撃・放火などが発生、1道3府37県の計369か所で約50日間にもわたりました。騒動への参加者は数百万人を数え、その鎮圧のために10万人以上の軍隊が投入されるほどの大規模な騒乱でした。正しく英語の”riots”にあたる状況だったのです。
ですから、英語の新聞などでの「令和の米騒動」を“rice riots”と書いている英字の新聞はありません。多くの新聞では、“rice shortage“と書かれているだけです。そしてその発生の原因については冷静に分析しているものがほとんどです。
例えば、在日米軍関係者が読んでいる星条旗新聞(8月28日付)では、次のように見出しが書かれています。
Perfect storm of events sparks rice shortage, ‘panic buying’ across Japan
パーフェクト・ストーム(不幸な出来事の連鎖)が米不足に拍車、「パニック買い」が全国に
現在の日本の現状は、rice shortage(米不足)でpanic buying(パニック買い)が起きている状況ということです。決して、“rice riots”と表現するほどの状況ではないということでしょう。
そしてその原因であるPerfect storm of events(パーフェクト・ストーム:不幸な出来事の連鎖)として、巨大地震、台風、そして1週間の連休(お盆)が指摘されています。
ちなみに星条旗新聞では海外からのインバウンド客の増加が原因とは指摘されていません。日本人と同様に、米軍関係者も米が買えなくて困っているとレポートされています。
これらの点を総合すると、私が友人のアメリカ人に対して「日本では、海外からのインバウンド客増加が急増して『令和の米騒動 “rice riots”」になっているよ」と言ったのは状況とその発生理由の説明の両面でいささか問題があったかなと感じるところです。
「令和の米騒動“rice riots”」は、日本語と英語で単語の持つイメージが厳密は違う場合もあるという良い例だと思います。単純に日本語での表現を直訳するではなく、実態を英語でどう表現するべきかを考えるべきだと痛感させられました。
三木 雄信
英語コーチングスクール「TORAIZ」代表
1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部経営学科卒。三菱地所(株)を経てソフトバンク(株)に入社。27歳で同社社長室長に就任。孫正義氏のもと、多くの米国IT企業とのジョイントベンチャーのプロジェクト、「ナスダック・ジャパン設立」「日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)買収」「ソフトバンクの通信事業参入」などのプロジェクトで、プロジェクト・マネージャーを務める。
トライズ株式会社代表、2015年に英語コーチング「TORAIZ(トライズ)」を開始。日本の英語教育を抜本的に変え、グローバルな活躍ができる人材の育成を目指している。
著書に、『世界のトップを10秒で納得させる資料の法則』(東洋経済新報社)、『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごいPDCA』(ダイヤモンド社)、『【新書版】海外経験ゼロでも仕事が忙しくても「英語は1年」でマスターできる』『ムダな努力を一切しない最速独学術』(ともにPHP研究所)ほか多数。