近年子どもをもたない夫婦「おふたりさま」が増えてきていますが、そのどちらかが亡くなって相続が発生した場合、配偶者の兄弟姉妹(父母)と何をどう分けるかについて話し合う、遺産分割協議が必要になります。「夫婦で築いてきた財産なのに、相手の兄弟と話し合わないといけないなんて……」と思ったあなたに向け、本記事では、松尾拓也氏の著書『「おふたりさまの老後」は準備が10割』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集し、その話し合いを回避する解決策「遺言書作成」について詳しく解説します。
Q. 残された配偶者にすべての財産を渡すためにはどうすればいいですか?
A.「遺言書」を書くことで、配偶者に100%財産を残すことができます(例外あり)。
おふたりさまのどちらかが亡くなって相続が発生すると、配偶者の兄弟姉妹(父母)と、何をどう分けるかについて話し合う、遺産分割協議をしなければなりません。
「夫婦で築いてきた財産なのに、相手の兄弟と話し合わないといけないなんて……」と思ったあなた。その話し合いを回避する、シンプルな解決策があります。それが、「遺言書」です。
おふたりさまの場合、故人による法的に有効な遺言書があれば、遺産についての話し合いをせずに相続手続きを進めることができます。法的に有効な遺言書があれば、原則、遺言書に従って相続されるからです。
遺言書を作成しておくことで、遺産分割についての話し合いが不要になるだけでなく、遺産相続の手続きそのものがスムーズになるのです。ただし、遺言書を書いても、配偶者に100%遺産を渡せないケースもあるので、注意してください。
Q. 遺言書さえあれば、配偶者は本当にすべての遺産を受け取れますか?
A. おふたりさまの場合、兄弟姉妹には「遺留分」がないので、親亡きあとであれば、配偶者に100%財産を渡すことができます。
法的に効力のある遺言書があれば、相続人は遺言通りに遺産を受け取れる……はずですが、そういうわけにはいかないケースがあります。それが「遺留分侵害額の請求」です。
遺留分とは、一定の相続人が受け取る権利を主張できる相続分のこと。もっといえば、遺言を無視して遺産を受け取る権利のことです。たとえば、配偶者のように遺産が入ることを期待できる関係の人が、遺言書によって何も相続できないとなってしまったら、人生設計が大きく崩れてしまいます。
そのため、一定の関係性をもつ相続人は遺産を最低限受け取れるよう、遺留分という「最低限の取り分」が定められています。遺言書がこの遺留分を侵害していると、その分の相続財産を受け取った相続人に対して「私の遺留分を返してください」と請求することができるわけです。
遺留分は、ほとんどの場合法定相続分の2分の1と決められています。たとえば故人に2人の息子がいて、「財産はすべて長男に渡す」という遺言書があったとしても、次男には遺留分があるため、法定相続分の2分の1を受け取る権利があります(父母など直系尊属だけが相続人の場合、遺留分は法定相続分の3分の1)。
行政書士松尾拓也事務所代表、有限会社三愛代表取締役
行政書士、ファイナンシャル・プランナー、相続と供養に精通する終活の専門家
行政書士、ファイナンシャル・プランナー、相続と供養に精通する終活の専門家。行政書士松尾拓也事務所代表、有限会社三愛代表取締役。1973年北海道生まれ。
父親が創業した石材店で墓石の営業に従事する傍ら、相続や終活などの相談を受けることが増えたため、すでに取得していた行政書士資格を活かし、相続・遺言相談をメイン業務として行うようになる。信条は、相談者からの困り事に「トータルで寄り添う」こと。
家族信託や身元保証など「新しい終活対策」についても積極的に取り組み、ライフプランや資産管理などの相談に応えるためにファイナンシャル・プランナー、住み替えニーズなどの相談に応えるために宅地建物取引士の資格を取得。ほかにも家族信託専門士、相続診断士、終活カウンセラー、お墓ディレクター1 級、墓地管理士など、終活にまつわるさまざまな資格を取得する。
経営する石材店では、おひとりさまやおふたりさまに好評な樹木葬や永代供養墓、ペットと一緒に入れるお墓など多様なニーズに応える墓苑を運営している。また、インテリアに合うモダンな仏壇の専門店も開設し、現代のライフスタイルに寄り添うご供養を提案している。
さらに地域ぐるみで終活に取り組む必要性にも着目し、他士業の専門家と連携した終活サポートチームを結成。終活セミナーなどの啓蒙活動に取り組むとともに、地域の行政に働きかけて独居高齢者の終活情報登録制度をスタートさせるなど、多方面で活動の場を広げている。
一人ひとりの「ライフエンディングシーン」(人生の終末期)で、最も頼りになるパートナーとなるべく、全方位視点で積極的な事業展開を行っている。趣味は本と酒と旅、ちょっと古めのクルマとバイク、座右の銘は「遊ぶように仕事し、仕事するように遊ぶ」。普段から「サムシングエルス(何か別の価値)を提供する」ことを大切にしている。
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