裁判所の判断
この点について、裁判所は、
・各マンションは実際の年間収支において利益が見込める内容ではなく、また、各マンションがいずれも平成元年築の中古マンションで値上がりが見込める要素はなかったことからすると一定の年数経過後にそれらを転売した場合に、返済期間25年のフルローンを組んで本件各マンションを購入した買主にとっては、売却益が得られる見通しがあったともいい難かったこと
・少なくとも、本件各マンションの客観的価値(実勢価格)が、被告らの提示した販売価格を一定程度下回っているようであれば、基本的には各マンションを何年か保有して売却することが想定していたという投資計画はほぼ成り立たないものであったこと
を踏まえると
と判断しました。
その上で、各マンションの販売価格が実勢価格を相当程度上回るものだったことを踏まえ、裁判所は、
「各マンションの販売価格につき原告を欺罔したとまでは認められないが、被告らは、日常的に不動産取引を扱う本件会社の従業員として、本件会社が本件各マンションを購入する価格がいくらであるかや、近隣の取引事例を参照するなどして本件各マンションの実勢価格を確認・調査することは容易であったにもかかわらず、何らの確認をすることもなく、原告に対し、本件試算表による投資計画に基づいて本件各マンションの購入を勧誘したものであり、投資に関わる重要な情報についての説明義務違反があったというべきである」
と述べて、説明義務違反を認め、不法行為に基づく損害賠償義務を負うと判断しました。
営業担当者への責任は認められたものの…
また、本件では、売主である会社は破産していたため、当時勧誘をした会社の営業担当者が被告とされていましたが、営業担当者に対して、裁判所は、
と述べて、その責任を認めました。
もっとも、100%責任が認められたというわけではなく、
「被告らによる本件各マンションの購入の勧誘が違法なものであったとしても、原告においても、平成28年当時、教師の職に就いており、それなりの社会経験と判断能力を有していたものであり、それにもかかわらず、自らの自己資金には余裕がない状況で、投資の内容について十分に考慮することなく本件各マンション購入の判断をしてしまったことに一定程度の軽率な面があったことは否めず、その他、本件に現れた一切の事情を総合考慮して、4割の過失相殺をするのが相当である」
と述べて、買主側の落ち度についても認定をしています。
冒頭で述べた通り、投資用物件の販売にあたっては、「投資内容に関わる重要な情報とリスクについて、必要かつ相当な範囲で正確な情報を提供すべき信義則上の義務がある」という規範は一般的な規範となっていますが、具体的に、売主業者が「物件の実勢価格を調査して説明する義務を負う」ということまでを認めたという点で参考になる事例です。
※この記事は2024年6月12日時点の情報に基づいて書かれています。
北村 亮典
弁護士
大江・田中・大宅法律事務所
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