特異家出人という存在
問題はこうした通常の家出人ではなく、特異行方不明者です。特異家出人ともいいます。特異行方不明者の事件を解決するのが、警察の捜査で最も難しいものの一つといわれています。
2023年1月、静岡県で行方不明になっていた中学3年生の男子生徒が33日ぶりに発見されたと報じられました。このときは、失踪後1週間経ってから警察が公開捜査に踏み切りました。
防犯カメラは時間が経つと消去されてしまうことを考えると、少し遅かったかなという印象です。実際に、中学生が小田原に行ったことまでは判明したものの、そこから先の足取りがわからなくなってしまいました。
特異行方不明者の定義はいくつかあり、①犯罪に巻き込まれた可能性が高い、②少年の福祉を害する犯罪に遭うおそれがある、③水難、交通事故に遭っている可能性がある、④遺書が見つかっており、自殺のおそれがある、⑤精神障害があり、自害、他害のおそれがある、⑥放っておくと、命の危険がある病人、高齢者、年少者……という感じです。
これらに該当する場合は、通常の行方不明とはまったく違う態勢が取られます。報道されるのは、ほとんどがこちらのケースです。
静岡のケースでは、中学生が1週間経っても見つからないということは遠くまで行ってしまったか、犯罪に巻き込まれた(または、これから巻き込まれる)可能性を警察は憂えたのだと思料します。幸い、報道を見た通行人が「似た子がいる」と通報してくれ、発見につながりました。
特異行方不明者が毎年どの程度出ているのか、警察庁から資料が出ていないのでわかりませんが、殺人・死体遺棄事件のような最悪な形で発覚するケースは年間30件にも満たないのではないでしょうか。
「これは事件らしい」ということになると、その旨が警察署長から捜査一課に伝えられ、捜査一課の幹部や鑑識課員が急行することになるでしょう。この場合、かなり隠密裏に行います。最初から殺人事件かもしれない、とはっきり判定できるケースというのはまれです。
三枝 玄太郎
※本記事は『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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