「えっ!これまで“景気後退局面”だったの?」5月の景気動向指数、一致CIの変化がしっかりしすぎて…【エコノミストが解説】

景気の予告信号灯としての身近なデータ(2024年7月5日)

「えっ!これまで“景気後退局面”だったの?」5月の景気動向指数、一致CIの変化がしっかりしすぎて…【エコノミストが解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

5月の景気動向指数の一致CIの変化が“しっかりしすぎ”で、機械的な基調判断はいきなり「下げ止まり」へ。景気後退的な状況が改めて認定されるという、皮肉なことになりました。本稿にて見ていきましょう。※本連載は宅森昭吉氏(景気探検家・エコノミスト)の『note』を転載・再編集したものです。

6月の月例経済報告の景気判断は「このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復」

「景気は、このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している」。これは、6月27日発表の内閣府「月例経済報告」の景気判断です。景気回復局面が続いているという判断です。

 

一方、最近の景気動向指数・速報値での景気の機械的な基調判断は2月に「足踏み」から「下方への局面変化」に転じました。ダイハツ工業の不正問題で生産関連データなどが一時的ではあるものの、一段と悪化したからです。2月から4月までは3ヵ月連続して、事後的に判定される景気の山が、それ以前の数ヵ月にあった可能性が高いことを示す「下方への局面変化」で、景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」にならずに踏みとどまっていました。ところが、5月速報値で一致CIは、前月差+1.3上昇、3ヵ月後方移動平均は+1.40の上昇で2ヵ月連続の上昇になり、結果として判断は「下げ止まり」になりました。

 

このように、「下方への局面変化」が継続していた状況は2014年にありました。消費税率が引き上げられた2014年は4月に景気動向指数の基調判断が「改善」から「足踏み」に低下、さらに8月に「下方への局面変化」に下方修正され、11月まで4ヵ月連続で、その判断が継続しました。2014年11月速報値では、一致CIは、前月差▲1.0と3ヵ月ぶりの下降。3ヵ月後方移動平均は+0.20上昇し、2ヵ月連続の上昇でした。

 

景気動向指数の景気の基調判断が、景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」に上方修正されるためには、「原則として3ヵ月以上連続して、3ヵ月後方移動平均が上昇、かつ当月の前月差の符号がプラス」になることが条件で、2014年11月では条件を満たさず「下方への局面変化」のままでした。

2014年は3ヵ月後方移動平均の変化が緩やかで、11月の4ヵ月目の「下方への局面変化」から12月でいきなり「改善」に戻った

2014年11月の一致CIの3ヵ月後方移動平均は24年5月と同様2ヵ月連続の上昇ですが、上昇幅が小幅でした。そもそも、一致CI前月差はマイナスで、今回24年5月より悪い内容でした。そして2014年12月に一致CIは、前月差+1.5と2ヵ月ぶりの上昇となった。3ヵ月後方移動平均は+0.46上昇し、3ヵ月連続の上昇」となりました。

 

これで「改善」に上方修正されるためには、「原則として3ヵ月以上連続して、3ヵ月後方移動平均が上昇、かつ当月の前月差の符号がプラス」になることが条件を満たしたとして、「改善を示している。ただし、基調判断に用いている3ヵ月後方移動平均のこのところの変化幅は、大きいものではない。」と3ヵ月後方移動平均の3ヵ月累計がギリギリだったため、但し書き付きで「改善」の判断に上方修正となったのです。この時は消費税率引き上げの影響での景気後退は回避されたと言われました。

 

今回も順調にいくと早ければ6月速報値の一致CIの前月差が「改善」に上方修正されるための条件を満たし(実際にはトヨタ自動車などの型式不正の問題で前月差マイナスの可能性が大きいですが)、2024年11月から12月にかけてのように、景気判断が「下方への局面変化」から「改善」に上方修正されることが期待されていましたが、条件が機械的に満たされたとして、いきなりの「下げ止まり」になってしまいました。

 

[図表1]2014年11月速報値・12月速報値での一致CIによる「景気基調判断」

24年5月速報値・一致CIは前月差+1.3ポイント上昇、3ヵ月後方移動平均は+1.40上昇、1標準偏差+1.14上回る大幅上昇。

しかし、7月5日に発表された5月速報値の景気動向指数で、一致CIは、前月差+1.3上昇し、3ヵ月連続の上昇となりました。3ヵ月後方移動平均は+1.40上昇し、2ヵ月連続の上昇となりました。

 

景気の基調的判断は「下げ止まり」になりました。一致CIが前月差プラスで、3ヵ月後方移動平均前月差が4月+0.77、5月+1.40と大幅なプラスで、「3ヵ月後方移動平均の符号が変化し、1ヵ月、2ヵ月、または3ヵ月の累積で1標準偏差分(1.14)以上逆方向に振れた場合」を満たしたのです。内閣府は「下げ止まり」の基準を機械的に満たしたとして、景気後退の動きが下げ止まっている可能性が高いことを示す「下げ止まり」に判断を上方修正(マスコミ報道による)したのです。

 

一致CI5月分が力強く上昇したために景気後退的な状況が改めて認定されるという、皮肉なことになりました。これで、一気に「改善」に戻ることはできずに、「前月差がプラスで、かつ7ヵ月後方移動平均の符号が変化し、1ヵ月、2ヵ月、または3ヵ月の累積で1標準偏差分以上逆方向に振れた場合」に認定される「上方への局面変化」を経なければならなくなりました。

 

[図表2]景気動向指数・CIの推移

 

6月速報分の一致CI前月差が製造工業生産予測指数などから見てマイナスの可能性が大きいため、「改善」に戻るのはかなり先になる可能性も出てきてしまいました。景気動向指数の景気の基調判断が「改善」に上方修正されるためには、「原則として3ヵ月以上連続して、3ヵ月後方移動平均が上昇、かつ当月の前月差の符号がプラス」になることが条件です。3ヵ月後方移動平均の上昇が6月で途切れてしまい、3ヵ月連続を1から数え直す状況にならないことを祈るばかりです。

 

※本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

 

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

 

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