(画像はイメージです/PIXTA)

近年では、次世代への着実に資産承継を目指す「相続対策」への意識が高まっていますが、それよりさらに一歩踏み込み、自身の生前のみならず、死後の財産管理にまで守備範囲を広げる「信託」へのニーズも増えています。税理士・公認会計士の岸田康雄氏が、民事信託と成年後見の基本について解説します。

病気の子の生活を守りたい、世代を越えた資産承継を実現したい…

認知症になると、当然ですが、自分自身で資産管理ができなくなります。生前、あるいは事情によっては〈自分亡きあと〉にも資産管理が必要なのに、それができない場合、「だれかに資産の運用管理を託す」ことになります。実際、高齢化が進展する日本において、そのようなニーズは広く存在します。

 

75歳以上の4分の1が認知症になる現状、任意後見制度は生前のみ対応可能ですが、その後は法定相続に移行します。もし生活を守るべき病気の子どもが遺されていた場合、それでは資産管理が十分に保証されるとは限りません。

 

ほかにも、中小企業の経営者が「長男」から「次男の孫」へと株式を継がせたいといった、〈世代を越える資産承継ニーズ〉や、法人を設立せずに管理者に任せたい〈事務管理ニーズ〉もあります。

 

こうした状況では、家族や親族、さらには信頼できる第三者を受託者とする信託契約を締結することで、生前や死後の財産管理に対する安心感と安定感を得ることができます。

 

とくに富裕層にはこれらのニーズが強く、「パナマ文書」の例に見られるように、海外では信託を活用した財産の管理・運用・承継を行うことが一般的です。

そもそも「信託」とはなにか?

「信託」とは、〈委託者〉が特定の目的を掲げ、その目的達成のために必要な管理運用者である〈受託者〉と契約することです。受託者に財産を移転し、管理運用を託します。

 

【信託の機能】

★ためる・ふやす(財産運用)

★まもる(財産管理)

★つなぐ・ゆずる(財産承継)

★わける(倒産隔離)

 

移転された財産は「信託財産」と呼ばれ、その管理運用の成果を受け取る権利を持つ受益者を決めます。

 

受益者が持つ権利である「受益権」があれば、受益者は、受託者から財産や利益を渡してもらうことができます。具体的には、信託財産の引渡しや信託財産から生み出された利益を渡すことを意味しています。

 

●委託者…元々有している財産を移転して託する(信託する)主体。

●受託者…託された財産を、管理・運用する主体。

●受益者(恩恵を受ける人)…財産から生じる利益を得る権利を持つ主体。

 

[図表1]信託の仕組み

 

信託契約の簡単な例として、次のようなケースがあります。

 

病気で寝たきりの長女を持ち、ほかに長男と次女がいる高齢者が、認知症の兆候がある状況で、経営しているアパートを次女と信託契約します。

この契約の目的は、委託者の死亡後に長女の生活の安定と福利厚生を図ることです。これにより、アパートの所有権は次女に移りますが、これは信託財産としての所有であり、次女の自己財産とは分別して管理されます。

 

高齢者が何も手を打たなければ、死亡後にアパートは相続財産となり、遺産分割協議が必要になります。法定相続では長女の取り分は3分の1となり、ほかの相続人との紛争が発生する可能性もあります。しかし、信託契約により、長女の死亡を信託終了事由とし、信託終了後の残余財産を次女またはその相続人が所有するように定めることができます。

 

信託は資産管理と資産承継のための手段です。身上保護を信託の目的にすることはできません。そのため、後見制度と組み合わせるなどして、実際の看護は家族や病院、社会福祉施設が行う必要があります。

 

信託の出発点は、信託の目的を設定することです。これは、認知症への対応や病気や障害のある子供の資産管理、中小企業の事業承継、趣味の会や社会貢献のための資産管理など、具体的な意図を持って定められるべきものです。

 

信託は一定期間継続する制度であり、担い手の権利義務を明確にするため、組成や維持にコストがかかります。それに見合う効果を得るためにも、当事者全員で、目的を話し合うことが極めて重要です。

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