(※写真はイメージです/PIXTA)

人生100年時代、晩年におけるお金に不安を感じている人は少なくありません。老後の資金準備といえば、まず自助努力で行う貯蓄や投資がイメージされますが、必ず取り組みたいのは公的年金の準備でしょう。国民皆年金といわれ、終身年金が支給される公的年金制度ですが、内容は複雑です。あとから制度の詳細を知り、後悔するケースもあって……。本記事では、Yさんの事例とともに年金の繰下げ支給の注意点について、オフィスツクル代表の内田英子氏が解説します。

年金事務所からの悲しい回答

実はMさんは年金を繰下げ受給しており、もともとの年金額から増額された年金を受け取っていたのです。公的年金の繰下げ支給は、原則65歳から支給される公的年金の受け取り時期を先延ばしする制度で、先延ばした期間に応じて増額された年金を受け取ることができるしくみです。Mさんは「引退して収入が減ったらYさんにも苦労をかけるから」と年金を繰下げ受給しており、70歳から増額された年金を受け取っていました。

 

すると、年金事務所の担当者から返ってきたのはこんな言葉でした。

 

「残念ながら遺族年金には繰下げは反映されません」

 

堅実でやさしかった夫の顔が思い起こされます。「こんなことなら、早くに受け取ればよかった……」Yさんはなんともやるせない気持ちになったのでした。

年金の繰下げと遺族年金

公的年金の繰下げ支給により増額されるのは以下の計算式で計算した金額です。

 

老齢基礎年金の額(振替加算額を除く)および老齢厚生年金の額×0.7%×65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数

 

先延ばしした期間は1ヵ月ごとにカウントされ、1年繰り下げるごとに8.4%、最大で10年84%まで増額することができます。公的年金はご本人がご存命の限り支給される「終身年金」ですので、増額された年金はご本人が一生涯受け取ることができます。Mさんは年金の繰下げ支給制度を利用して、基礎年金・厚生年金ともに5年繰り下げ、年金額を42%増額していました。

 

一方、遺族年金は、公的年金の被保険者または被保険者であった人が亡くなったとき、その方に生計を維持されていた家族が受け取れる年金です。受給には亡くなった方と扶養されていた家族ともに一定の要件がありますが、原則として以下の計算式で計算した金額が遺族厚生年金として支給されます。

 

報酬比例の年金額×3/4

 

報酬比例の年金額とは、その名称のとおり、ご自身の報酬金額に応じて計算される年金額で、年金額の算出にあたっては以下のとおり厚生年金に加入していた期間も加味されます。

 

【報酬比例部分=A+B】

 

A:平成15年3月以前の加入期間

平均標準報酬月額×7.125/1,000×平成15年3月までの加入期間の月数

 

B:平成15年4月以降の加入期間

平均標準報酬額×5.481/1,000×平成15年4月以降の加入期間の月数

 

ご本人が亡くなった際には、ご本人が受け取れるはずだった老齢厚生年金は、一定の要件を満たしていることで遺族に振り替えられ、遺族厚生年金として受け取ることができますが、振り替えられるのはあくまで繰下げ前の年金額で本来の報酬比例部分のみです。したがって、繰下げ受給をしていても、遺族年金には反映されないのです。
 

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