音沙汰なしの父…久しぶりの実家訪問で目にした、唖然の光景
その後、男性は仕事が多忙になり、父親のケアが手薄に。そして姉の方は、配偶者の親がけがをしたことで、男性同様、父親に気を回せない状態が続いた。
「土曜日の昼前にグッタリしていたら、妻から〈お義父さん、大丈夫なのかしら? いい加減様子を見に行きましょうよ〉といわれまして。それで4ヵ月ぶりに父親を訪ねたんです」
男性の実家は横浜市の郊外。周囲も高齢化が進み、あちこち空き家が目立っている。顔見知りのご近所さんもほとんど見かけない。
「実家の庭は草ボウボウで、玄関までの踏み石も見えないぐらいでした」
門柱のインターフォンを鳴らすが、反応がない。男性と妻は不安そうに顔を見合わせ、門を開けて玄関へと向かった。
玄関ドアを叩き、「お父さん! お父さん!」と呼び掛けても反応がない。男性が合い鍵で玄関を開けると、そこには目を疑う光景が広がっていた。
「ゴミ、ゴミ、ゴミの山でした…」
ゴミが詰められて丸くなったコンビニの袋が、雪玉のようあちこちに散乱。テーブルにはせんべいやパック総菜の容器が積み上がり、悪臭を放っている。
肝心の父親はというと、リビングの革張りのソファでぐったりと横になっている。
「あなた、見て、お父さんの服…」
父親がヨレヨレのポロシャツの上に重ね着しているのは、丸首の肌着だった。
「お父さん、お父さん! 様子を見に来たよ!」
「お、おう…」
男性が知っている、ダンディーな父親の姿はなかった。
「お父さん、ダメだよこんな生活してちゃ。やっぱり、うちで一緒に暮そう?」
男性の問いかけに父親は、
「イヤだ、暮さない」
といってそっぽを向くと、
「俺はもう、お母さんのところに行く…」
といって、大粒の涙を流した。
内閣府『令和5年版高齢社会白』によると、「65歳以上の住居形態」で最も多いのが「持ち家・一戸建て」で75.6%。「持ち家・分譲マンション等」11.8%、「賃貸住宅(マンション等)」8.4%、「賃貸住宅(戸建て)」2.0%と続き、老人ホーム含む「高齢者向け住宅・施設」は1.1%。
65歳以上人口は3,500万人といわれていることから、全国で40万人近い高齢者が老人ホーム等で暮らしていることになる。
パートナーに先立たれたことで、孤独感を募らせ、社会から遠ざかってしまう高齢者はしくなくない。
「こうなったら、本格的に老人ホームを探すしか…」
男性は、姉と連絡を取り合いながら、父親を入居させる老人ホームを大急ぎで探し回っている。
[参考資料]
厚生労働省『令和4年人口動態』
内閣府『令和5年版高齢社会白書』
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