(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。

 

【“プロ”に聞く!インド経済】

●BJPは単独過半数を逃すもモディ首相の指導力は健在

●景気は堅調、インド準備銀行は米利下げを待つ展開

BJPは単独過半数を逃す

●インドでは4月19日から6月1日にわたり7回に分けて総選挙の投票が行われ、6月4日に一斉開票になりました。与党連合・国民民主同盟(NDA)は勝利しましたが、事前に行われた出口調査とは異なり、モディ首相が率いる与党インド人民党(BJP)の議席数は2019年対比で63議席減の240議席となり、単独過半数に届きませんでした。その一方で、NDAの中でも左派寄りのテルグ・デーサム党(TDP)が13議席増やしたことを始め、野党連合インド国家開発包括同盟(INDIA)では中道左派のインド国民会議派(INC)が47議席増やし、左派のサマジワーディ党(SP)が32議席増やすなど、左派政党の躍進が目立ちました。10年にわたるモディ政権は経済の高成長を実現してきましたが、貧困層の有権者は成長実感を得られずに不満を抱いたため、BJPに対する反対票がこれら左派政党に流れたとみられます。

 

[図表1]インドの総選挙結果

第3期モディ政権が発足

●インド総選挙で与党連合が過半数を確保したことを受け、モディ氏は6月9日、3期目の首相に就任しました。モディ首相は翌10日、第3期閣僚名簿を発表しました。内務相、国防相、財務相、外相など重要な閣僚人事(主に下記の閣内大臣)においてBJP所属メンバーは再任となりました。

 

●インドの閣僚を大別すると、①閣内大臣(閣議に参加する大臣)、②閣外大臣(閣議に参加しない副大臣級のポスト、設置されない省もある)、③閣外大臣・専管(閣議には参加しないが当該省のトップを務め、首相に直接報告)の3種類があり、これらを合計すると、第3期モディ政権の閣僚数は72人です。①については31人中、BJPメンバーが26人、②については36人中、BJPメンバーが32人、③については5人中、BJPメンバーが3人と、全閣僚数72人のうちBJPメンバーが61人と85%を占めています。主力大臣の再任および全閣僚数におけるBJPのシェアの高さを考慮すると、BJPの議席減少にもかかわらず、国政においてモディ首相は強い政治指導力を維持していると判断して良さそうです。また、主力大臣の再任は、第3期モディ政権において大きな政策のフレームワークが維持されることを示唆していると考えられます。

 

[図表2]新政権の主要閣僚

インドの1-3月期成長率は市場予想を上回る

●2024年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+7.8%と前期から鈍化したものの、市場予想を上回りました。一方、生産面から推計された実質粗付加価値(GVA)成長率は同+6.3%と市場予想通りになり、実質GDP成長率を下回りました。インドのような新興国では、需要面のデータよりも生産面のデータが多く、実質GVAの方が精度が高いと言えそうです。実質GDP、実質GVAデータに弊社で季節調整を施し前期比年率を計算すると、いずれも2023年7-9月期を底に加速傾向にあり、2023/24年度最後の四半期である1-3月期も循環的な景気モメンタムは上向きであることがわかります。この点は2024/25年度へ成長のゲタを履くことになるため、同年度の成長率見通しは上方修正されやすくなります。

 

[図表3]実質GDPと実質GVAの前年同期比

 

[図表4]季節調整値の前期比年率

利下げ時期は2024年10-12月期の見込み

●上記のように、インドでは循環的な成長モメンタムは堅調ですが、消費者物価上昇率は2023年9月から2024年5月にかけてインフレ目標レンジ(4±2%)内に収まっています。今後も目標レンジ内に収まると想定できることから、インド準備銀行にとって、利下げに移行するための重要な条件は、米国が利下げ局面に入ることによって米ドル高が一服し、インドルピーの対米ドルレートが少なくとも安定することだと思われます。弊社では、米国の利下げ時期についてメインシナリオを2024年9月と予想しているため、準備銀行はこれを確認した上で、2024年10-12月期(10月または12月)に利下げを開始すると予想しています。

 

[図表5]消費者物価上昇率の推移

 

(2024年6月18日)

 

石井 康之

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフリサーチストラテジスト

 

※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『【インド】モディ政権、3期目入り 単独過半数を逃すも「強い政治指導力」は健在とみる【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフリサーチストラテジスト】』を参照)。

 

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