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介護と相続は密接に関係しています。介護の準備不足が原因で「争族」につながることは少なくありません。きょうだい間のコミュニケーション不足や、介護したことの評価が低く見積もられることがもめごとの原因となるケースとして挙げられます。FP歴27年の安田まゆみ氏の著書『もめないための相続前対策: 親が認知症になる前にやっておくと安心な手続き』(河出書房新社)から、一部を抜粋して紹介する本連載。安田氏が、介護の影響でどのように争族へと発展してしまうのか、具体的なケースを交えて解説します。

介護したことの“評価の低さ”

こんなケースを想像してみてください。

 

ひとり暮らしをしていた父親(80歳)の介護が始まりました。子どもは3人。みな50代。まだ、それぞれの子どもが中学生や高校生で、これから教育資金がかかってくるので、共働きやパートなどで、教育資金をせっせと貯めています。

 

子ども世代がこのような状況にあるときに、親の介護が始まると、多くの場合、介護の押し付け合いが起こります。

 

「忙しいから仕事を休めない」ことを理由に、「自分は介護に携われない」ことを主張し合うのです。「介護=時間がとられて大変=いつまで続くか見通しが立たないから大変」という介護に対する情報不足、知識不足のために起こる態度なのです。

 

結局、親の近くに住む子どもが中心となって介護を担うことになります。

 

実際は、その子どもも仕事を休めないとなると、パートやアルバイトをしている配偶者に実務を担ってもらうことになったりします。

 

中心となっている子ども夫婦がひたすら、病院通い、介護事業者との連絡、お金の管理等を一手に担っていくことになります。要介護状態が重くなれば、頻繁に親元に行く必要があるため、配偶者は、パートも辞めざるを得なくなります。

 

残念なことに、他のきょうだいたちは、各々の仕事を言い訳にした手前、親の介護にあまり協力的ではなく、平日の病院への付き添いを一度も代わろうとはいいだしてきません。

 

やがて相続が発生すると、親の遺産分割が始まるわけですが、介護に携わらなかったきょうだいたちは、介護を担った人には多少の上乗せはするものの、遺産はほぼ平等に分けよう、と主張します。介護に携わった子どもは、どう思うでしょうか?

 

パートを辞めてまで、親の介護のために奔走した時間への評価は、少なすぎるほどです。パートを続けていれば、得られていたはずの収入については、機会損失をしているにもかかわらず、見て見ぬふり。

 

介護をした者にとっては、介護をしてきた事実が軽視されることが許せなく、不満が募ります。

 

他のきょうだいたちは、介護に携わっていないがゆえに、介護に費やした時間、経済的な損失、精神的な疲労、そのどれについてもリアルには想像することができません。

 

介護をした者が主張している寄与分についての評価が、きょうだい間でずれてしまうために、介護をした者は遺産分割に対する不平等感を募らせ、他のきょうだいたちとの間に溝が生まれて、不仲となり「相続」が「争族(争う家族)」となってしまうのです。

 

介護についての準備不足は、このような不条理な状況を生み出していきます。このようなケースは、珍しいことではなく、どこにでも起きていることではないかと思います。

 

 

安田 まゆみ

ファイナンシャルプランナー

 

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