(※写真はイメージです/PIXTA)

映画『男はつらいよ』でも語られなかった、本当につらい男の人生とは。下がる実質賃金、増える社会保険料。それでも一家を養うのは男の仕事と期待され、稼ぎがなければ結婚もできない。そんな男性のいきづらさを、書籍『弱者男性1500万人時代』の作者、トイアンナが語る短期集中連載、最終回は「新しい時代のDV」について語ります。

3 「イケメンと美女“だから”活躍の機会を与える」のはセクハラ

たとえば、こんなシチュエーションを想像してほしい。

 

「ミス◯◯に選ばれるほどの美しい女性が同僚にいた。彼女は、ある重要な取引先とのミーティングに同行した。ただ、彼女は異動したばかりで、プロジェクトの専門知識を持っていなかった。しかし、「せっかくこんなに美しい女性もいることですし」と、突然スピーチの機会を与えられた。それは上司から彼女への「配慮」だったが、むしろ彼女は素人発言で赤っ恥をかいた。そして、取引先との関係は悪化した。

 

これは、典型的な「慈悲的差別」である。慈悲的差別とは、立場が弱そうな方へ、本人に確認せず、先回りして不要な配慮や気遣いをする差別を指す。

 

たとえば、かつては女性社員へ「女性だからどうせ30代になると育児へ専念するだろう。あらかじめ残業が少ない、出世コース外のキャリアを歩ませてあげよう」という慈悲的差別が、以前はまかりとおっていた。今ならセクハラで一発退場となる案件である。

 

こういったわかりやすいケースは減ったものの、今でも「美女だから、話せば先方にとっても気分がいいだろう」とか「きれいな女性にとっても、上司から優遇されて嬉しいにちがいない」といった偏見にもとづいた慈悲的差別がまかり通ってしまうケースがある。

 

さきほどのミス◯◯の女性は、「いつもこういう待遇だから……」と半ばあきらめたようすだった。かつては実力で判断されたいと思っていたが、もう諦めてしまった。どうせ無駄だから……という声だった。

 

「では、大学の女子枠や、管理職の女性枠は?」

 

という声が聞こえてきそうだ。そう、これも実際には差別である。だが、いまは許容されている差別だ。なぜならば、女性が管理職となるだけで「上司と関係を持ったからだろう」などと言われる会社が、未だに大企業ですら存在しているからである。

 

また、電気・ガス・水道業では女性管理職の比率が4.1%しかない。日本に多い製造業でも8%だ。ここまで女性管理職がレアだと、女性にとっても意見を言いづらい環境が生まれる。慈悲的差別も生まれやすい。だからこそ、女子枠は現存する大きな女性差別を乗り越えるために、女子枠という別の差別で対抗する「蛇の道は蛇」といえる施策である。

 

女子枠を「差別ではない」と言ってしまうのはただの欺瞞だ。ただ、冒頭で述べた通り「何が差別か」は常にアップデートされる。将来、女性が当たり前に管理職となれる日が来た場合は女子枠が差別だと世間から認識され、消えていくだろう。

「差別は誰でもしうるもの・直していくもの」という姿勢

 

では、世間にはなぜ差別がこれほどあり、そしてまだ、まかり通っているのか。その背景には「差別をしたら人間として一巻の終わり」という誤解がある。だが、実は誰もが差別をしているのだ。

 

かつて、私は童貞の男性をネタにして、居酒屋で笑ったことがある。2024年だったら絶対にしない。それが差別だと知っているからだ。だが、当時の私はやった。差別だと気づいていなかったからだ。こういうふうに、「相手が傷ついていること」「許されないこと」を知り、私達は変化していく。

 

現在、私が普段ブログサービス「note」に書いているエッセイは、相当無難なビジネススキルに関するネタだ。だが、10年後には内容が差別的だと認識されるかもしれない。そういうものだ、と思いながら書いていくしかない。

 

ところが、「人生で一度でも差別をしたら終わり」だと思っていると、自分の中にある差別を、絶対に認められなくなってしまう。だが、たとえば子どもは無邪気に障害者の方へ「なんで足がないの?」と聞いてしまうことがあるだろう。それを、一度発言したから二度と許してはいけないといった潔癖な線引きをすれば、この世には「差別をしたことなんてない、と思いこんでいる危ない人」しか残らない。

 

差別は誰でもしてしまう可能性があるものだ。そして、差別をしてしまっていたこと気づいたら、何が差別だったのかを振り返って反省して改めていくという日々の繰り返しが、時代を前へ進め、傷つきを減らしていくはずである。

 

 

トイアンナ

ライター/経営者

 

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