白人が背負う「差別」という原罪
2.多様化・包摂化の浸透と過激化
第2の変化は多様化(ダイバーシティ)、包摂化(インクルージョン)の浸透と過激化である。
人権、弱者保護、公平性、多様なメンバーが違いを尊重されることで働きがいを共有できる環境づくり運動、SDGsやESGとも共通する理想の追求が過激化・左傾化した。
白人は生まれながらに差別という原罪を背負っているというCritical Race Theory(批判的人種論)、BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動、人種によって合格点に差をつけるというような過度な弱者への配慮、建国の父たちを奴隷所有者として否定するなどの反歴史主義など、左傾化、理想主義、建前主義の弊害が極まっている。
それによる逆差別の被害者意識もマイノリティに転落する寸前にある白人の低学歴層で高まっている(白人比率は1965年の84%から2020年には58%へと急低下したが、2060年には5割を下回ることが確実視されている)。それは過激な脱化石燃料化に対する反発とも共鳴している。
白人と黒人、ヒスパニック等マイノリティとの格差は、近年失業率で見ても平均賃金で見ても顕著に縮小している。
またコロナパンデミック以降、トラック運転手やウェイター、ウェイトレスなどあまり熟練度を求められない低賃金の大卒未満の職業分野で労働需給がひっ迫し、全体として賃金格差が縮小している。そのなかで少数派優遇の声が強まっているのである。
敵を明確化することで立場を鮮明にするトランプ氏の「戦略」
トランプ氏は敵を想定することで、これらの国民的不満に真っ向から答えるというスタンスを明確にしている。
第1の敵は米国の製造業の雇用を奪ったグローバリゼーションと中国、第2の敵は過度の弱者配慮、逆差別と歴史否定主義を推進する既得権益集団、官僚機構「ディープステイト(影の政府)」の解体である。
この敵の想定は乱暴で必ずしも合理性があるとは考え難いが、選挙のスローガンとしては、国民心情に刺さるものになっているのであろう。
国民の心情に応えられなかった既存政党
既存の政治勢力である共和党、民主党がともにそうした国民の不満に応えられていなかった。かつての共和党対民主党は、富裕層対労働者、白人対有色人種、保守対リベラル、小さな政府対大きな政府、自由主義対保護主義、といったはっきりした党派対立軸があったが、いまはそれがほとんど失われ、混沌の状態にある。
この民主党、共和党ともに再定義が必要な時期に、いち早く再定義を主張して飛び出したリーダーがトランプ氏であるといえる。
トランプ氏は共和党内で圧倒的支持を得ているが、その主張の多くは伝統的共和党の価値観からかけ離れたものである。トランプ氏は共和党の屋台骨を作り替えたといえるのではないか。
大富豪で資本主義体制の受益者が、取り残された弱者の利益を代弁してアンチワシントン、アンチエスタブリッシュメントを唱え、権力を「ディープステイト」から取り戻すと主張している点に、わかりにくさがあるが、それこそがトランプ主義といえるのではないか。
それが単純な白色革命や復古主義などの反動的なものなのか、それとも改革を通してさらなる発展をもたらすものなのか。反トランプ派は前者といい、汎トランプ派は後者の立場に立つが、いまはどちらの言い分にも一理がある局面といえる。
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