アメリカ帰りの60歳・元エリートサラリーマン、定年退職後に届いた「税務署からのお尋ね」に困惑…後日〈追徴税250万円〉を課されたワケ【税理士が解説】

アメリカ帰りの60歳・元エリートサラリーマン、定年退職後に届いた「税務署からのお尋ね」に困惑…後日〈追徴税250万円〉を課されたワケ【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

国税庁の「所得税及び消費税調査等の状況」によると、コロナ禍以降、個人・法人とも税務調査の件数が大幅に増加しているそうです。たとえ会社員であっても税務署から目をつけられ、多額の追徴税を課されることも……。定年直後のエリートサラリーマンに起こった悲劇をもとに、税務署が個人に対して重点的に調査するポイントなどをみていきましょう。多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が解説します。

税務署は「海外資産」に目を光らせている

今回の事例における「為替差益」のほか、国外財産から生じる所得で申告漏れが多いのは、海外預金口座の利子、海外証券口座の投資運用益、海外不動産からの賃料収入などです。

 

これらの所得は、原則として現地国でも課税されるため、日本では申告不要と思われている人も多いかもしれません。しかし、これらの所得は日本に送金する・しないにかかわらず、日本でも納税義務が生じます。この際、外国で支払った税金は「外国税額控除」として精算されることとなります。

 

また、富裕層が海外に財産を移転するケースが増えてきたことから、国税庁は海外資産の把握を強化することを目的に平成26(2014)年1月より「国外財産調書制度」を導入しています。

 

「国外財産調書制度」は、一定以上の海外資産を保有する人に届け出を義務づける制度です。その年の12月31日時点において海外で保有する資産の合計額が5,000万円を超える国内居住者は、翌年6月30日までに税務署に「国外財産調書」を提出しなければなりません。

 

令和元年にはこの「国外財産調書制度」に基づく刑事告発が初めて行われるなど、海外資産に対する監視が強まっています。

 

「CRS」情報を活用して税務調査を行うケースも

また、最近では一般の個人課税部門でも「CRS(common reporting standard=共通報告基準)」情報を活用して税務調査を行うケースが増えてきています。

 

CRSとは、国際的な租税回避を防ぐために経済協力開発機構(OECD)が策定したもので、日本の非居住者の金融口座情報を他国の税務当局とのあいだで自動的に交換する仕組みです。

 

口座保有者の個人情報(氏名、住所、マイナンバーなど)や収入金額(利子・配当などの年間受取総額)、残高情報(口座残高)などが対象となります。日本では2018年9月末に初回が実施されました。

 

令和4年事務年度の国税庁の公表によると、約253万件におよぶ日本の居住者に係わる日本国外の金融口座情報が95ヵ国・地域から集まっており、その内訳は、個人口座が約250万件、残高10.9兆円、法人口座は約3万件、残高5.5兆円となっています。

 

なお、受け取った情報は海外への資産隠しや国際的租税回避行為等への適切な対応のため、国税庁によって管理されます。

税務署は「国外財産に対する課税」を強化している

最近の円安傾向により、富裕層に限らず外貨預金などで為替差益を得ている人は少なくないでしょう。しかし、「海外にある預金だから申告しないで大丈夫だろう」などとは思わないでください。

 

ここ数年、富裕層が海外資産を保有するケースが増えてきたことで、国税庁による国外財産に対する課税が強化されています。

 

無申告の場合、「仮装・隠ぺいを行った」として悪質だと判断されると35%~40%の重加算税が課されることもあります。

 

国外財産の移動や海外からの送金があった場合などは、今回のような「お尋ね」が届くこともあるかもしれません。その際は1度専門家に相談されるとよいでしょう。

 

 

宮路 幸人

多賀谷会計事務所

税理士/CFP

 

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