前回は、営業戦略に合わせた「取引先」の見直し方を説明しました。今回は、建設業の得意先の与信管理における「3つの危険信号」について見ていきます。

重点営業先は新規ではなく「既存顧客」

数字が足りない。では皆で新規開拓をしよう。どの業界でもよく聞くセリフである。私も新規開拓や飛び込み営業を数多く経験してきたが、正直、新規開拓は大変である。かなり大変である。

 

結論を言うが、新規開拓にパワーをかけるより、既存顧客からの受注を増やすほうがよほど、効率的で簡単だ。精神的ダメージも少ない。

 

とにかくまず、既存顧客における自社シェアが現在どれくらいなのかを調べてみてほしい。自社のシェアがすべての既存顧客で100%なら新規開拓も必要だろう。しかし一般的には、シェアが10〜30%、低い先では5%程度というところも数多くあるはずだ。そういった会社を攻めるのも容易ではないかもしれないが、新規開拓よりずっと楽である。いずれにしても、営業していてちょっと難しいと感じればすぐ知らない他の会社へ、というのはやめたほうがいい。

 

そして、既存顧客へのアプローチで重要なのは、基本の徹底とスピードアップである。

 

基本の徹底とは、時間厳守、約束を守る、求められるものに必ず答える、資料等は分かりやすく作成、丁寧かつきめ細かな連絡と説明など、当たり前のことばかりだ。それができていない人がどれだけ多いことか。

 

スピードとは、対応の時間を短くするということにほかならない。1週間でやっていたことは1日で、1カ月かかっていたことは1週間でやる。相手はきっと驚くだろう。いずれも大きな顧客満足につながり、数字となって返ってくるはずだ。また、結果的に自身の業務の効率化にもつながることが多い。

 

新規顧客の開拓については、既存顧客や関係者からの紹介があった場合に広げるくらいでちょうどよい。それでも意識の持ち方によっては、新規顧客は意外に増えてくるものだ。

費用をかけずに与信情報を確認する方法

なお、得意先の与信管理、売掛金管理も経営計画の大切なポイントである。「あの会社の社長はいい人だから」「昔から付き合っているから」などといって安心していてはいけない。勝負をかける勇気とともに、時には引く勇気を持ちたい。いくら売上が立っても、それが不良債権になってはまったく意味がない。

 

与信管理にあたっては、調査機関の情報を買うというのがてっとり早い方法だ。しかし、調査会社の情報に多額の費用をかけて鵜呑みにしても、焦点がずれていて不良債権をつかんでしまうという会社も多い。

 

やり方によっては、費用をかけずに自分たちの情報網や足を使って与信情報を確認することもできる。例えば、都道府県庁の土木管理課などに備え付けられている建設業関連の許可申請書には、各社の財務情報が記載されている。誰でも閲覧でき、コピーは不許可の場合も多いがメモは可能だ。

 

その決算書の中で特に確認しなければならないのは、BS(貸借対照表)だ。PL(損益計算書)は売上高の変動と収益の情報が載っているのでもちろん参考にはなるが、粉飾されているケースもあるので、それ程参考にならない。

 

具体的に必要な情報は、BSにある「金融機関からの借入金額」と「自己資本比率」の2点だ。この2点だけは間違いなく押さえておいてほしい。損益が赤字かどうかよりもはるかに重要な情報である。

 

そして、もし次のような状態であれば、危険シグナルだ【図表】

 

①年間売上高に対する借入金(長期短期合計)の比率が50%超え

②債務超過(貸借対照表の純資産がマイナス)

③売上が直近2年で大きく減少(半減ならかなり深刻)

 

極端に言えば、実際にこの3点の確認だけで、与信管理はほぼ可能だと思う。

 

【図表 与信管理における危険シグナル】

 

 

営業戦略に関連して、ビジネスモデルを検討してみることも必要だ。

 

例えば、売上高を追求していると、規模の大きな工事の受注に向かいがちだ。しかし、自社の体力と比較して規模が大きすぎると、人員や資金をその現場に振り向けざるを得ず、他の現場が手薄になりがちだ。工事担当者へのプレッシャーも強く、ミスにつながりかねない。大きな工事を狙うのではなく、自社の強みを探し、それを活かすことを考えるべきだ。

 

また、公共工事では各社、入札で元請け工事を狙いがちだが、元請け工事だけが儲かるというのは思い込みにすぎない。下請け工事にむしろ焦点を合わせてみると意外に活路が開けたりする。ただし、下請けとして入る場合は、優良な元請けを選ぶことが重要である。

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