1.概観
【株式】
5月の主要国の株式市場は概ね上昇しました。米国株式市場は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が再び高まったことや、主要半導体銘柄の決算が市場予想を大きく上回ったことを好感して、月半ばに最高値を更新しました。欧州の株式市場も、欧州中央銀行(ECB)の利下げ観測や好決算が投資家心理を支え、ドイツDAX指数や英FTSE指数が月半ばに最高値を更新しました。日本の株式市場は、欧米の株式市場が最高値を更新したものの、国内企業の決算で示された慎重な24年度業績見通しや長期金利の上昇が重石となり、やや上値の重い展開となりました。中国株式市場は、中国当局の政策期待は続いたものの、相場上昇の反動もあり、上海総合指数が小幅安、香港ハンセン指数は小幅高となりました。
【債券】
米国の10年国債利回り(長期金利)は、米雇用者数や米消費者物価の伸びが鈍化したことを受けて、年後半のFRBによる利下げ観測が再び強まり、低下しました。ドイツの長期金利は、ECBによる6月会合での利下げが見込まれるものの、過度な利下げ期待が後退し、小幅に上昇しました。日本の長期金利は、日銀が追加利上げや国債買い入れの減額など金融政策の正常化を進めるとの見方が強まり、1%を超える水準に上昇しました。
【為替】
円の対米ドルレートは、月初に円買い介入とみられる動きで大きく上昇しましたが、その後は弱含み、前月とほぼ横ばいで終了しました。
【商品】
原油価格は、米国景気の減速感が意識され、原油需要が弱含むとの見方が高まったことなどから、大きく下落しました。
2.景気動向
<現状>
●米国の1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.3%となり、前期の同+3.4%から減速しました。輸入の増加が下押し要因となりました。
●欧州(ユーロ圏)の1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.3%と、インフレの落ち着きを背景に3四半期ぶりにプラス成長となりました。
●日本の1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率▲2.0%と、マイナス成長でした。品質不正問題による自動車の生産停止の影響を受けました。
●中国の1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+5.3%と、前期から加速しました。生産や輸出の増加が景気の押し上げ要因となりました。
●豪州の10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比+1.5%と、前期から減速しました。物価高で個人消費が伸び悩み、前期比は+0.2%でした。
<見通し>
●米国は、大幅な利上げに伴う景気抑制効果や財政刺激効果の一巡などから、景気が緩やかに減速すると想定しています。雇用が安定しており、個人消費が底堅いことや、企業収益が好調なことから、景気の急減速は避けられ、軟着陸(ソフトランディング)に至るとみています。
●欧州は、これまでの金融引き締めによる景気抑制効果により、低成長が続くとみられます。ただし、インフレの鈍化による購買力の回復に加えて、労働力不足に伴う雇用増、EU復興基金などの財政支援が景気を支えるため、腰折れはしないとみています。
●日本は、品質不正問題に伴う自動車の生産・販売停止による一時的なマイナス要因が剥落することに加えて、賃金の上昇、経済対策(定額減税・給付金)、インバウンド消費の増加、底堅い海外景気や堅調な企業収益を背景に、緩やかな成長軌道を辿る見通しです。
●中国は、不動産市場の低迷や海外景気の減速で需要不足が続き、若年層の雇用悪化の影響などから個人消費も力強さを欠くことから、景気の回復ペースが鈍化するとみられます。ただし、政府の住宅対策や拡張財政により急激な減速は避けられる見通しです。
●豪州は、中国景気の減速に加え、利上げの累積効果や、粘着質なインフレで家計の実質可処分所得が圧迫されることから個人消費が力強さを欠き、当面景気が緩やかに減速するとみられます。ただし、年後半のインフレ鈍化や利下げ実施により、25年にかけては徐々に持ち直すとみています。