(画像はイメージです/PIXTA)

給与明細を見るたび、引かれる金額の大きさにションボリ。せっかく投資で利益を出しても、課税額を聞いてガッカリ…。そんな人も多いのではないでしょうか。でも、節税でもっと手取りを増やせるかもしれません。ここでは、ベテラン税理士が「所得」の概念と、所得を圧縮できる基本的な控除等について、体系的にわかりやすく説明します。FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

所得税:個人が1年間で得た所得に対して課される税金

「所得税」は、個人が1年間で得た所得に対して課される税金です。「所得」とは、収入から、必要経費を差し引いた残額です。計算された所得に税率を掛けることで、所得税が求められます。

 

「収入」とは、給料や報酬などの入金される金額です。サラリーマンの場合は給料やボーナス、個人事業主の場合は売上が収入となります。

 

「必要経費」は、売上原価や販売費などです。生活費などは含まれません。収入よりも必要経費のほうが大きい場合、所得がマイナスになることもあります。

 

所得税の計算では、所得を10種類に分類して計算します。所得の種類には、①利子所得②配当所得③不動産所得④事業所得⑤給与所得⑥退職所得⑦山林所得⑧譲渡所得⑨一時所得⑩雑所得があります。

 

最終的な所得税額は、課税所得金額に累進課税率を適用して計算されます。累進課税は、所得が増えるほど税率が高くなる仕組みです。一方、分離課税の所得には異なる税率が適用されます。

 

計算された税額からは、源泉徴収税額や予定納税額を差し引き、その残額を確定申告時に納付します。

事業所得:総収入から必要経費を差し引いて算出する

「事業所得」は、総収入から必要経費を差し引いて算出されます。必要経費には売上原価販売費一般管理費などがあり、これらは事業運営に直接関連する費用です。個人の生活費や税金は経費に算入できませんが、業務と関連する家賃や光熱費は一定の条件下で経費に含めることができます。

 

事業所得には、青色申告特別控除が適用される場合があり、複式簿記を用いた適切な申告を行えば、最大65万円の所得控除が受けられます。

 

売上原価の計算は期初の在庫と当期の仕入れから期末在庫を差し引いて行います。減価償却は、固定資産の価値減少を経年にわたり分配する方法で、事業の必要経費として計上します。

不動産所得:不動産の貸付けから得られる所得のこと

「不動産所得」は、不動産の貸付けから得られる所得で、年間の収入から必要経費を控除して算出されます。収入には家賃や駐車場料金などが含まれ、敷金や保証金は含まれません。経費には固定資産税や管理費、修繕費などが含まれます。青色事業専従者給与では、実際に支払った給与を経費として全額控除できますが、適切な届出が必要です。

 

事業的規模の賃貸経営、例えばアパートが10室以上など、特定の基準を満たす場合には、青色申告特別控除が適用され、最大65万円の所得控除が受けられます。

給与所得:給料、ボーナスのこと。住宅手当、家族手当も含む

「給与所得」は、給料やボーナスなどです。住宅手当や家族手当なども含まれます。給与所得は、収入から給与所得控除を差し引いて算出されます。

 

給与所得者は、年末調整を通じて、1年間の給与収入に対する税額と毎月の源泉徴収税額の差が精算されます。

退職所得:退職手当や一時金など、退職に際して受け取る所得

「退職所得」は、退職手当や一時金など、退職に際して受け取る所得です。分離課税となり、会社が行う源泉徴収で税務が完了します。退職所得控除は勤続年数に応じて計算されます。

譲渡所得:土地や株など、資産を譲渡したことで得られる所得

「譲渡所得」は、資産を譲渡したことによって得られる所得です。譲渡所得は、「土地建物等の譲渡所得」「株式等の譲渡所得」および「その他の資産の譲渡所得」に分けられます。

 

土地や建物の譲渡所得は所有期間に応じて短期または長期に分類され、異なる税率が適用されます。一方、株式の譲渡所得には所有期間による区別はなく、一律の税率が適用されます。

 

土地建物の譲渡所得は、譲渡収入から取得費と譲渡費用を差し引いた金額であり、建物の場合は減価償却を考慮します。株式等の譲渡では、取得費と譲渡費用、借入金の利子が控除可能です。

損益通算:不動産所得等の損失を、ほかの所得の黒字と相殺!

「損益通算」は、異なる所得カテゴリー間で損失と利益を相殺し、課税対象所得を減少させる制度です。対象となるのは、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の損失で、これらから生じた赤字をほかの所得の黒字と相殺できます。なお、利子所得や退職所得では計算上の損失は発生しませんし、雑所得や一時所得の損失は限定的にしか相殺できません。

 

損益通算は、経常所得グループと譲渡・一時所得グループに分けて行われます。最終的に残った損失は純損失として扱われ、青色申告者はこの損失を翌年以降3年間にわたって繰り越して控除するか、繰り戻して前年の所得税の還付を請求できます。

所得控除:自分や家族のために支払った特定の費用を所得から引く

「所得控除」には、物的控除と人的控除として14種類あります。基礎控除はすべての納税者に適用され、ほかにも配偶者控除、扶養控除、医療費控除などがあります。これらの控除は、納税者が自己や家族のために支払った特定の費用を所得から差し引くことを可能にし、税額を減少させます。

 

たとえば、配偶者控除や扶養控除は納税者の家族構成や家族の所得によって適用範囲が決まります。また、医療費控除は、一定額以上の医療費を支出した場合に適用されます。社会保険料控除は、支払った社会保険料を全額控除できます。

 

所得に税率を乗じる所得税額の計算には、総合課税と分離課税があります。総合課税では、課税所得金額に対して超過累進税率を適用して税額を求めます。例えば、課税所得が700万円の場合、23%の税率を適用し、控除額を引いた後の税額を計算します。

税額控除:算出された所得税額から一定額を控除する制度

「税額控除」は、算出された所得税額から一定額を控除する制度で、配当控除や住宅借入金等特別控除があります。配当控除は、配当所得に対して適用され、二重課税の軽減を目的としています。課税総所得金額に応じて控除額が変わります。また、住宅借入金等特別控除は、一定の条件を満たす住宅ローンを利用して住宅を取得した場合に適用される控除です。控除額は借入金の年末残高に一定率を掛けて計算され、最大13年間適用されます。この控除を受けるためには、入居や所得金額、住宅の床面積などに関する複数の要件を満たす必要があります。

 

源泉徴収制度では、支払者が給与や退職金などの所得に対して税金を徴収し、納税者に代わって税務署に納めます。

確定申告:事業所得や不動産所得、青色申告制度利用で特典も!

「確定申告」は原則として納税者が所得金額や所得税額を計算し、税務署に提出しますが、給与所得者は年末調整でこれが行われるため、通常は確定申告の必要はありません。

 

事業所得や不動産所得の青色申告制度を利用すると、特別控除や純損失の繰越控除など様々な特典を活用することができます。損失の繰越しや繰り戻しも行えるため、税負担の軽減につながります。

 

 

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

 

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