あなたも「逮捕」ができる
ところで、先ほどの憲法33条の「何人も……令状によらなければ、逮捕されない」という一文をもう一度よく見てみてください。何か気づきませんか?
実はこの文には「誰に」という部分が抜けているのです。どういうことでしょうか。これは、今、この本を読んでいる皆さんも泥棒を逮捕することができるという意味なのです。
あなたはコンビニエンスストアで万引をする男を目撃してしまいました。男はそのまま出て行ってしまいそうです。警察を呼びたいところですが、あたりに交番はない……。そこで、持ち前の正義感を発揮し、店から出たところで男に声をかけます。男はびっくりした顔であなたを見ましたが、観念して「やりました」と言い、かばんに入れた商品を見せました。
この場合、犯罪を見つけたあなたが男を逮捕することができます。逮捕状は必要ありません。これが「現行犯逮捕」です。
警察官以外の人が逮捕しているので「常人逮捕」という言い方をすることもあります。現行犯逮捕は憲法では例外の扱いですが、実際には意外に多いのです。
1981年の「犯罪白書」におもしろい統計が載っています。警察庁が1979年1月から1980年6月までの間に全国で発生した金融機関強盗188件を調べたところ、検挙された128人の内訳は、警察官による現行犯逮捕が32.8%、一般人による現行犯逮捕が25.8%もあり、合わせて6割にも達しています。
話を万引犯に戻します。駆けつけたお巡りさんはニコニコ顔です。「ありがとうございます」「いえいえ……」「では、ちょっと署までご同行願えますか」「ちょっと待ってよ、なんで私が警察に⁉」刑事ドラマでは、署に同行されるのは犯人1人と相場が決まっています。しかし実は、泥棒を現行犯で捕まえて、お巡りさんに引き渡せば終わりではないのです。
私自身、ある年の大みそかの深夜、泥棒を捕まえたことがあります。妻が持っていたアタッシェケースを、通りかかったホームレス風の初老の男がつかんで持って行こうとしたのです。妻が悲鳴を上げたので、気づいた私が追いかけて捕まえました。110番で数分後に駆けつけたお巡りさんに手錠をかけられ、男はパトカーに乗せられていきました。
「いやあ、災難だった。さあ帰ろうか」そう思ったら、「ちょっと署まで来てください」。警察署に連れて行かれ、取調室に通され、たっぷり3時間ほどかけて刑事さんに事情を聞かれました。
これにはれっきとした理由があります。裁判が始まると、現行犯の場合でも、検察は裁判所に「現行犯人逮捕手続書」という書類を出さなければなりません。検察官はこの手続書に目を通してから公判に臨む必要があります。
手続書には逮捕について、そのとき、その場所の状況を詳細に書いておかなくてはなりません。そのため、逮捕した人間にもしっかりと事情聴取する必要があるのです。
三枝 玄太郎
※本記事は『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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