資産総額1億~2億円程度の「上級庶民」のケース
「3回相続すれば、大金持ちでも没落する」…世間でまことしやかにささやかれるウワサもあってか、「相続税は恐ろしい」と思っている人も多いようです。
相続税は累進課税なので、大金持ちにとっては確かに怖い存在でしょう。しかし、遺産が1億円や2億円程度の「上級庶民」にとっては、それほど怖いものではありませんし、ましてや一般庶民にとっては無関係です。
たとえば、遺産が現金1億円で、法定相続人が配偶者と子ども2人の場合の税額を計算すると、316万円です。配偶者がなく、子ども2人だけが法定相続人の場合は少し高くなりますが、それでも770万円程度です。
節税対策を考える際には、限界税率(遺産が100円増えると相続税が何円増えるか、という計算結果)で考える必要がありますから、上記の数字から受けるイメージよりは、多少重税感があるかもしれませんが、それでも大したことはありません。
相続税額を計算するアプリはインターネットから無料で手に入りますし、操作も簡単ですので、心配なら、実際に自分が被相続人になった場合の税額を計算してみるとよいでしょう。
不動産は時価ではなく、相続税評価額で計算されるので、都心の不動産を持っている人は相続税評価額も調べてみるとよいでしょう。時価より大幅に低く出て、安心するかもしれません。
庶民でも所得税は重くのしかかって来ますので、それと比べると相続税の低さは際立っています。そのため筆者は、相続税を引き上げて所得税を引き下げるべきだと考えていますが、その話は別の機会に。
むしろ、相続税対策の「コスト」「リスク」に注意を
相続税対策として生命保険に加入している(将来の被相続人が自分で生命保険料を支払っている)人は多いようです。生命保険は、法定相続人1人あたり500万円まで相続税が非課税だからです。もっとも、生命保険会社には大勢の社員がいて、生命保険の加入者がかれらの人件費等を負担していることを考えると、加入するメリットとコストを慎重に比較する必要がありそうです。
不動産が相続税評価額で評価されることに着目し、節税対策として貸家を保有する人もいるようです。賃貸不動産は、家賃収入を取得価額で割った利回りがよいので、それも動機となっているのでしょうが、不動産は毎年古くなって価値が落ちていくこと、借り手が変わるたびにリフォームするコストが必要であること等は、しっかり計算しておく必要があるでしょう。
加えて、賃貸不動産にはリスクもあります。日本の人口が減少していくのは確実なので、需要と供給の関係から家賃相場が下落するかもしれません。新しく借家を借りる人(就職する人、結婚する人など)は、総人口以上のペースで減っていくでしょうから、空き家のリスクもあるでしょう。加えて、借家人とのトラブル等のリスクもあります。
〈30年間家賃を保証します〉といった契約もあるようですが、いまの家賃ではなく、今後の世間相場並みの家賃を保証します、ということかもしれず、また、途中で条件変更が行われるケースがあるかもしれないので、契約書をしっかりチェックする必要があるでしょう。
自宅に加えて貸家も持つとなると、資産に占める不動産の割合が高くなりすぎる可能性もあるので、バランスの観点からも要検討でしょう。
上級庶民の対策なら「暦年贈与」程度で十分
庶民には相続税対策は不要です。上級庶民でも、暦年贈与と生活費支援で十分だと筆者は考えています。
毎年110万円までの贈与は贈与税が非課税ですから、子が2人いれば毎年220万円、孫もいればさらに多く、相続財産を減らすことができます。これを10年続ければ、上級庶民にとっては十分な節税になるでしょう。
もっとも、税務署から「10年前に1,100万円の贈与を契約し、毎年110万円ずつ支払っていたのだろう」などといわれないよう、工夫は必要なようです。毎年の贈与時期や金額を少しずつ変える、毎年111万円贈与して1,000円の贈与税を支払う、贈与契約書を毎年作成する…といったことを検討してみましょう。
意外と知られていないようですが、子どもの生活費を親が支援するのは、通常の日常生活の費用であれば、贈与税の課税対象となりません。したがって、クレジットカードの家族カードを作って子どもに持たせるとか、孫の教育費を自分の銀行口座から引き落とさせる、といったことも選択肢でしょう。
もっとも、相続税関係は複雑ですから、若干の費用を支払って税理士に相談することも検討しましょう。自分が被相続人となってから、天国で「ああしておけばよかった」などと反省することになったら残念でしょうから。
余談ですが、筆者は毎年の確定申告を税理士に依頼しています。知らない制度が多数あって、アドバイスが大変役に立っています。日本人は金を払って情報を得るのはもったいないと考える人が多いようですが、筆者は謝礼を払って専門家の知見を分けてもらうことで、結構得をしていますよ。
本稿は以上ですが、相続税対策等々は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
塚崎 公義
経済評論家
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