「経常収支」は、貿易収支・サービス収支などの合計をいう
「国際収支統計」という統計があります。日本人(本稿では、日本にいる個人および法人という意味)と外国人との取引を記録して集計した統計です。「経常収支」というのは、国際収支統計の一部で、最も重要な統計のひとつです。
「経常収支」は「貿易収支」「サービス収支」「第一次所得収支」「第二次所得収支」を合計したものです。これが黒字なら日本人の資産が増え、赤字なら減ります。もっとも、資産が増えずに借金が減る場合もあるので、資産から負債を引いた「純資産」で考えるほうが正確でしょう。家計簿が黒字だと財産が増える、というのと似ていますね。
「貿易収支」は財の輸出から輸入を引いた値です。「サービス収支」はサービスの輸出から輸入を引いた値です。サービスの輸出というのは、インバウンド旅行者が日本国内で食事や宿泊をした代金を支払う等々の取引のことです。「第一次所得収支」は、利子や配当の受け取りから支払いを引いた値、「第二次所得収支」は途上国向けの援助です。
かつての日本は巨額の貿易収支黒字を稼いでいましたが、最近では多くの輸出企業が「輸出するより、売れるところで作る」という方針のため、貿易収支は概ねゼロ(原油価格によってプラスになったりマイナスになったりする)となっています。
サービス収支は、かつてはマイナスでしたが、インバウンドが増えたので、最近では概ねゼロのイメージでしょう。第一次所得収支は巨額の黒字、第二次所得収支は小幅の赤字です。合計した経常収支は大幅な黒字となっています。
過去の貿易収支黒字によって日本は巨額の海外資産を持っていて、そこからの利子配当収入が巨額なので、いまではそれによって経常収支が黒字となり、対外純資産は増え続けているのです。
経常収支は、いうなれば「日本国の家計簿」である
輸出とサービス輸出は、日本人が働いて外国人が楽しんで、対価を日本人が受け取るというものですから、家計簿の給料収入に似ています。輸入とサービス輸入は外国人が働いて日本人が楽しんで、対価を日本人が支払うというものですから、家計簿の消費支出に似ています。
第一次所得収支は銀行預金の利子、保有株の配当、住宅ローンの金利支払いの合計と、第二次所得収支は赤い羽根共同募金と、それぞれ似ています。つまり、経常収支は家計簿と似ているのです。
もっとも、違いもあります。家計簿は、現金(および銀行預金)の増減を管理するものですから、株を買ったり自動車を買ったり借金を返したりするとマイナスになるかもしれません。一方で、経常収支は資産から負債を引いた純資産の増減を見るものですから、海外の株を買っても海外に工場を建てても海外からの借金を返しても記載されません。そうした取引は、国際収支統計の別の場所に記載されるのです。
経常収支黒字は「ガマンの対価」、必ずしもよいことでは…
経常収支黒字は、よいこととは限りません。「自分で働いて稼いだのに、贅沢をがまんして、他人を楽しませてあげた結果」なのですから、「宝くじが当たって楽しく遊んだ」のとは違うのです。極端な可能性としては、「恐慌によってコメ等が売れ残り、輸出されたので経常収支は黒字だったが、国民は飢えていた」ということもあり得るわけです。
反対に、経常収支赤字が悪いこととも限りません。経済発展のために設備機械を輸入したら経常収支が赤字になった、という途上国は、来月から設備を使って製品を作って輸出すればよいのですから、前向きな赤字と評価できるでしょう。
経常収支黒字が円高をもたらすとは限らないワケ
経常収支が黒字だということは、日本人が外貨を受け取った額が支払った額よりも多いということなので、日本人が受け取った外貨を売却してドル安円高になる、と考える人もいるでしょうが、そうとは限りません。
輸出企業は受け取った外貨を売却して円に替え、従業員の給料等を支払いますし、輸入企業は輸入代金のドルを買いますから、貿易収支の黒字・赤字はそのままドルの値段に影響します。
しかし、金利や配当の受け取りが、ドルの売買に直結するとは限りません。多くの投資家は「金利や配当を受け取ったら、それを使って別の外国株を買おう」などと考える場合も多いのです。
最後に「国の借金」の話をしましょう。「国は巨額の借金を抱えている」という話を聞いたことがある人も多いでしょうが、これは「日本国が外国から借金している」という意味ではありませんので、誤解のないように気をつけたいものです。日本国は外国との関係では黒字が続いていて、巨額の資産を海外に持っています(対外純資産が巨額)。
「国の借金」というのは、「地方公共団体と対比したときの中央政府が、民間部門から巨額の借金をしている」ということなのです。それなら「中央政府の借金は」といってほしいと筆者は思っているのですが…。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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