持分取得決定の制度等を活用する場合の注意点
(4) 譲渡権限付与決定の効力
譲渡権限付与決定は、確定しなければ効力は生じません(非訟88②・87⑨)。即時抗告がなされないまま即時抗告期間が満了することによって確定します(非訟56④⑤)。
譲渡権限付与決定が確定した場合、譲渡権限付与決定の請求をした共有者は、所在等不明共有者の持分の譲渡権限を取得します。ただし、この権限は、共有者全員が、特定の者に対して、各自の有する持分全部を譲渡することを停止条件とするものなので、当該条件が成就しなければ、所在等不明共有者の持分の譲渡の効力は生じません(民262の3①)。
さらに、当該決定の効力が生じた後2か月以内(ただし、裁判所において伸長可能)に、当該決定により付与された権限に基づく所在等不明共有者の持分の譲渡の効力が生じない場合には、当該決定の効力は失われます(非訟88③)。
なお、この期間内に所有権の移転登記を行う必要はありません。
(5) 所在等不明共有者からの請求
所在等不明共有者は、譲渡権限付与決定を請求した共有者がなした供託金の還付請求権を取得します(非訟88②・87⑤)。
また、所在等不明共有者は、譲渡権限付与決定により当該持分を第三者に譲渡した共有者に対して、不動産の時価相当額を、所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求できます(民262の3③)。本条の請求ができるのは、供託金額と時価相当額との間の差額分のみであると解されています。
(6) あてはめ
調査の結果、曽祖父の相続人に所在等不明共有者がいる場合、本件不動産の売却のため、持分取得決定や譲渡権限付与の利用を検討します。
この点、所在等不明共有者の持分が共同相続人間で遺産分割を要する相続財産に属する場合には、相続開始の時から10年以上経過している必要がありますが、本件では、曽祖父の相続から10年以上経過していると思われ、いずれの制度も利用できそうです。
なお、共有者(相続人)の構成次第では、いずれの制度を利用するかによって供託金の額が異なる可能性があり、留意すべきです。
3. 所在等不明共有者以外の共有者の意思を確認する
持分取得決定の制度や譲渡権限付与の制度の活用を検討するときには、知れている共有者の意向を確認することも重要です。
例えば、知れている共有者間では、当該共有不動産を売却することで足並みがそろい、購入希望者もいれば、第三者への譲渡の実現可能性が高いため、譲渡権限付与が一回的解決になるでしょう。
本事例では、遺産共有ではない持分の共有者であるBが売却に前向きで、甲社が購入希望を示しているため、曽祖父の相続人のうち知れている共有者も売却の意向であれば、譲渡権限付与が望ましいです。
他方で、相続人のうち知れている共有者の中で売却に反対する者がいれば、譲渡権限付与の手続をしても期限内に譲渡できない可能性が高いと考えられます。
この場合には、持分取得の手続または遺産分割手続を経て所在等不明共有者の持分を知れている共有者に帰属させ、共有物分割の手続を行い、売却に反対する共有者との共有関係を解消してからの売却を目指すことになると考えられます。
〈執筆〉
山田裕佳(弁護士)
平成27年 弁護士登録(東京弁護士会)
〈編集〉
相川泰男(弁護士)
大畑敦子(弁護士)
横山宗祐(弁護士)
角田智美(弁護士)
山崎岳人(弁護士)
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