完全に詰んだ…亡き父が遺した山林の共有部分を売却したい→調べてみて判明した〈驚愕の真実〉とは?【弁護士が解説】

山田裕佳
相川 泰男
完全に詰んだ…亡き父が遺した山林の共有部分を売却したい→調べてみて判明した〈驚愕の真実〉とは?【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

父の遺産である山林の共有持分について売却を依頼された相談者。売却するのは構わないと思っていたのですが、調べてみると何十年も相続登記がなされておらず、放置されたまま。山林は曽祖父の名義で、全ての相続人を探すことは困難な状況です。本稿では、弁護士・山田裕佳氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋し、解説します。

新設された「譲渡権限付与決定」を行う制度とは

2. 共有者(遺産共有の場合を含む)の一部が所在不明の場合における、当該所在等不明共有者の持分の譲渡を受けるための方法を検討する

(1) 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与制度について

旧法下では、共有の不動産を売却したいときに所在が分からない共有者がいた場合、共有者全員の同意が得られないため、当該共有不動産を売却することはできませんでした。

 

そこで、令和3年改正民法では、不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が、知れている共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として、所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判(以下、この裁判を「譲渡権限付与決定」といいます。)をしてもらうことができる制度が新設されました(民262の3)(前掲『Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』140頁)。

 

(2) 要件など

① 所在等不明共有者

所在等不明共有者の持分取得決定と同様です(上記1. (2)①参照)。

 

② 対象となる共有物

対象となる不動産には、遺産共有状態にある不動産も含まれます。ただし、所在等不明共有者の持分が相続財産に属し、共同相続人間で遺産分割をすべき場合には、相続開始の時から10年を経過しないときには、裁判所は、譲渡権限付与決定をすることができません(民262の3②)。

 

また、本制度の対象となる共有物には、不動産の使用または収益をする権利も含まれます(民262の3④)。

 

(3) 手続

譲渡権限付与決定は非訟事件であるため、非訟事件手続法に規定されています(非訟88・89)。

 

① 共有者による裁判の申立て(民262の3①)

所在等不明共有者と不動産を共有している共有者が請求します。

管轄は、不動産の所在地を管轄する地方裁判所です(非訟88①)。

 

② 裁判所による公告(非訟88条②・87②一・二・四)

共有者からの請求を受け、裁判所は、以下の事項を公告します。

 

㋐譲渡権限付与決定の申立てがあったこと

 

㋑裁判所が譲渡権限付与決定をすることについて異議があるときに、所在等不明共有者が一定の期間内(3か月を下ってはならない)にその旨の届出をすべきこと

 

㋒㋑の届出がないときは、譲渡権限付与決定がなされること

 

③ 裁判所による供託命令(非訟88②・87⑤)

譲渡権限付与決定をするための裁判所による供託命令の手続は、持分取得決定の場合と同様です(上1.(3)④参照)。

 

供託金額は、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じ按分して得た額であり、裁判所が定めます(民262の3③、非訟88②・87⑤)。定め方は上記のとおりです1.(3)④参照)。

 

裁判所の供託命令における供託金額の変更や供託命令に対する不服申立て、供託命令に従わない場合の取扱いについても、上記のとおりです(1.(3)④参照)(非訟88②・87⑥⑦⑧)。

 

④ 裁判所による譲渡権限付与決定

以上の手続を経て、裁判所は、譲渡権限付与決定を行います。裁判所は、この決定について、所在等不明共有者に告知する必要はありません(非訟88②・87⑩)。

 

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※本連載は、山田裕佳氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相川 泰男

新日本法規出版株式会社

◆遺産分割時やその前後に想定される具体的なトラブル事例を分類・整理しています。 ◆①発生の予防、②更なる悪化の回避、③適切な対応という視点で道筋を示しています。 ◆「チェックポイント」により、調査・確認、検討す…

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