元兄妻から、亡き母の介護料として100万円を請求された
先月母が亡くなりました。相続人は、兄と私の二人です。母は兄夫婦と同居しており、兄の妻が仕事を辞めて、母の療養看護をしていました。
母が亡くなった3か月後に、兄と兄の妻は離婚しました。現在、兄の元妻から、兄と私に対して、母の介護料として100万円を支払うよう求められています。
紛争の予防・回避と解決の道筋
◆特別寄与者の判断基準時は被相続人死亡時であり、当該時点で親族であった者は、その後に親族でなくなっても特別寄与者となる
◆被相続人死亡後の特別寄与料請求権(抽象的権利)は、相続人に対する意思表示により放棄することができる
◆特別寄与料について、特別寄与者と相続人間で協議が調わない場合には、家庭裁判所の審判によって定められることとなる
◆審判の申立ては、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月以内又は被相続人死亡時から1年以内にしなければならない
チェックポイント
1. 請求者が特別寄与者に該当するかを確認する
2. 特別寄与者の意向を確認し、特別寄与者が請求しない意向を示した場合には、特別寄与料の請求権を放棄する旨の意思表示を受け、その証拠化を検討する
3. 特別寄与者が請求の意向を示した場合には、特別寄与料と遺産分割の一体解決を検討する
4. 特別寄与者の意向が確定しない場合には、特別寄与料請求の除斥期間の経過を待つことも検討する
解説
1. 請求者が特別寄与者に該当するかを確認する
(1) 特別寄与者の範囲に関する民法の定め
ア 特別寄与者の範囲
平成30年の改正により、相続人に該当しない親族が、被相続人に対し無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をしたと認められる場合、相続の開始後、相続人に対し、その寄与に応じた額の金銭の支払を請求することができる制度が創設されました(民1050①*)。
*以下、民法については「民」と表記します
この制度によって請求される金銭は「特別寄与料」、特別寄与料の請求権者は「特別寄与者」と定義されていますが(いずれも民1050①)、特別寄与者の範囲は被相続人の親族に限定されます(ただし、親族のうち、相続人、相続の放棄をした者及び民法892条の規定に該当しまたは廃除によってその相続権を失った者は特別寄与者から除かれます。)。
ここでいう「親族」は民法725条にいう親族を指し、現時点では事実婚若しくは同性婚関係にある者またはそれらの者の子は含まれないと解されています(堂薗幹一郎・野口宜大編『一問一答新しい相続法〔第2版〕平成30年民法等(相続法)改正、遺言書保管法の解説』181頁(商事法務、2020)。以下「一問一答」といいます。)。
また、「親族」であることの判断基準時は相続開始時です。この点については、特別寄与料の制度が、被相続人の療養看護に努めた者に一定の財産を与えることが実質的公平の理念に適うものであることのみならず、
被相続人の推定的意思にも合致すると考えられることから設けられたことを踏まえ、相続開始時点で既に親族ではなくなっている者にまで財産を与えることが被相続人の意思に合致しているとは認めがたいことも多いと考えられること、
また、特別寄与者の範囲を親族に限定した趣旨が相続をめぐる紛争の複雑化や長期化を防ぐことにあることを踏まえ、親族の判断基準時を相続開始時と簡明にすべきと考えられる
といった理由が示されています(一問一答182頁)。
他方、相続開始時点で親族関係にあった特別寄与者は、相続発生後に離婚等により親族でなくなった場合でも、特別寄与者としての地位を失いません。
イ 特別寄与料の額
なお、特別寄与料の支払について、当事者間で協議が調わないときや、協議ができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができ、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定めます(民1050③④)。
また、相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に民法900条から902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担するとされています(民1050⑤)。
元兄妻は、母が亡くなった時にまだ「親族」だったため「特別寄与者」に該当する
(2) 本事例へのあてはめ
本事例において、相続開始時である被相続人死亡時点では、兄の元妻は被相続人の1親等の姻族に該当していましたので、特別寄与者となります。そのため、兄の元妻は特別寄与者として、被相続人の相続人である兄および「私」に特別寄与料を請求する権利を有します。