(※写真はイメージです/PIXTA)

父の遺産である山林の共有持分について売却を依頼された相談者。売却するのは構わないと思っていたのですが、調べてみると何十年も相続登記がなされておらず、放置されたまま。山林は曽祖父の名義で、全ての相続人を探すことは困難な状況です。本稿では、弁護士・山田裕佳氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋し、解説します。

所在等不明共有者の定義と「持分取得決定」までの手順

(2) 要件など

① 所在等不明共有者

「共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」とは、必要な調査を尽くしても、共有者の氏名または名称やその所在を知ることができないときをいうとされています(法制審議会民法・不動産登記法改正部会資料30・12)。

 

ただ、具体的な調査方法については規定がないため、最終的には、調査結果を踏まえて、裁判所が事案ごとに判断することになります。

 

具体的な調査方法としては、所在等不明共有者が自然人の場合、登記簿および住民票による所在調査(所有者が死亡している場合は、被相続人の戸籍および相続人の住民票の調査)が挙げられます。

 

所在等不明共有者が法人の場合には、①当該法人の事務所所在地に本店または主たる事務所がないこと、並びに②代表者が法人の登記簿上および住民票上の住所に居住していないか、法人の登記簿上の代表者が死亡していて存在しないことの調査が想定されています(法制審議会民法・不動産登記法改正部会資料30・12)。

 

② 対象となる共有物

対象となる不動産には、遺産共有状態にあるものも含まれます。ただし、持分取得決定の請求があった不動産につき、裁判による共有物分割請求(民258①*)または遺産分割の請求があり、かつ、知れている共有者から、持分取得決定への異議が出されると、裁判所は、持分取得決定をすることができません(民262の2②)。

 

*以下、民法については「民」と表記します

 

さらに、所在等不明共有者の持分が相続財産に属し、共同相続人間で遺産分割をすべき場合には、相続開始の時から10年を経過しない限り、裁判所は、持分取得決定をすることができません(民262の2③)。これは、共同相続人の遺産分割上の権利に配慮をしたものです。

 

なお、相続開始の時から10年を経過していれば本制度を利用できますが、この場合にも上掲の民法262条の2第2項に定める制限があります。

 

また、本制度の対象となる共有物には、不動産の使用または収益をする権利も含まれます(民262の2⑤)。

 

(3) 手続

所在等不明共有者の持分取得決定は非訟事件のため、その手続は、非訟事件手続法に規定されています(非訟87・89)。

 

① 共有者による裁判の申立て

(民262の2①)所在等不明共有者と不動産を共有している共有者が請求します。管轄は、不動産の所在地を管轄する地方裁判所です(非訟87①)。

 

② 裁判所による公告(非訟87②)

共有者からの請求を受け、裁判所は、以下の事項を公告します。

 

㋐持分取得決定の申立てがあったこと

 

㋑裁判所が持分取得決定をすることについて異議があるときに、所在等不明共有者が一定の期間内(3か月を下ってはならない)にその旨の届出をすべきこと

 

㋒民法262条の2第2項の異議の届出を一定の期間内(3か月を下ってはならない)にすべきこと

 

㋓㋑および㋒の届出がないときは、持分取得決定がなされること

 

㋔持分取得決定の請求をした共有者以外の共有者(以下「請求外共有者」といいます。)が持分取得決定の申立てをするときは、一定の期間内(3か月を下ってはならない)にすべきこと

 

なお、㋒の異議の届出が定められた期間を経過した後になされたときには、裁判所は、当該届出を却下します(非訟87④)。

 

③ 裁判所による知れている共有者への通知

(非訟87③)②の公告をしたときには、裁判所は、遅滞なく、登記簿上その氏名または名称が判明している共有者に対して、②の規定により公告した事項(㋑を除きます。)を通知しなければなりません(非訟87③前段)。

 

なお、この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所または事務所宛に発することで足ります(非訟87③後段)。

 

④ 裁判所による供託命令(非訟87⑤)

裁判所は、持分取得決定をするために、持分取得決定の請求をした共有者に対して、一定期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を、裁判所が定める供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じます。

 

供託金額は、申立人が取得する共有持分の時価相当額であり、裁判所が定めます(民262の2④、非訟87⑤)。不動産鑑定士の評価書、固定資産税評価証明書、不動産業者の査定書などの証拠に基づいて判断されるようです(法制審議会民法・不動産登記法改正部会資料56・13)。

 

裁判所は、供託金額の決定後でも、持分取得決定までの間に、事情の変更により決定で定めた供託金額を不当と認めるに至ったときには、供託金額を変更しなければなりません(非訟87⑥)。

 

なお、これらの決定に対しては即時抗告ができます(非訟87⑦)。裁判所が決めた供託金額を申立人が供託しないなど裁判所の決定に従わないときには、裁判所は、申立てを却下します(非訟87⑧)。

 

⑤ 裁判所による持分取得決定

以上の手続を経て、裁判所は、所在等不明共有者の持分を取得させる旨の裁判を行います。裁判所は、この決定について、所在等不明共有者に告知する必要はありません(非訟87⑩)。

 

この決定は、確定しなければ所在等不明共有者の持分の取得という効果は発生しません(非訟87⑨)。即時抗告がなされないまま即時抗告期間が満了することによって確定します(非訟56④⑤)。

 

(4) 請求外共有者からの請求

持分取得決定の請求は、二人以上の共有者で併合して申し立てる場合と、一人の共有者が申し立てた後に、同一の不動産について、請求外共有者が新たに申し立てる場合が考えられます。

 

後者の場合には、上記(3)②㋔で定める期間内に、裁判所に対して、持分取得決定の請求を申し立てる必要があります(非訟87②四③)。この申立てが上記(3)②㋔で定める期間を経過した後になされたときには、当該申立ては却下されます(非訟87⑪)。

 

持分取得決定の請求をした共有者が複数いる場合、裁判所は、請求をした各共有者に対し、所在等不明共有者の持分を、請求した各共有者の持分割合で按分し、各自に取得させます(民262の2①後段)。

 

(5) 所在等不明共有者からの請求

所在等不明共有者は、持分取得決定の請求をした共有者がなした供託金の還付請求権を取得します(非訟87⑤)。

 

また、持分を取得した共有者に対して、取得した持分の時価相当額の支払を請求することができます(民262の2④)。

 

もっとも、所在等不明共有者は、供託金還付請求権を取得し、時価相当額の支払請求権も担保されています。そのため、本条の請求ができるのは、供託金額と時価相当額との間の差額分のみであると解されています。

 

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※本連載は、山田裕佳氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相川 泰男

新日本法規出版株式会社

◆遺産分割時やその前後に想定される具体的なトラブル事例を分類・整理しています。 ◆①発生の予防、②更なる悪化の回避、③適切な対応という視点で道筋を示しています。 ◆「チェックポイント」により、調査・確認、検討す…

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