【駅徒歩30分の築古実家】「2,500万円で売却決定!」50代独身長女の快哉に、「老人ホームはイヤ!」80代母の泣き声がかき消されたワケ

【駅徒歩30分の築古実家】「2,500万円で売却決定!」50代独身長女の快哉に、「老人ホームはイヤ!」80代母の泣き声がかき消されたワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

父親が亡くなってからひとり暮らしをしていた母親も、高齢となりいよいよ施設へ。母はひとり娘に同居と介護を迫りますが、娘は自分の生活のため、母の要望には応えられません。どのような着地に至るのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

独身会社員の50代女性、80代母からの要請に頭を抱える

今回の相談者は、50代会社員の山田さんです。施設に入所している80代の母親について心配事があるとのことで、筆者の事務所を訪れました。

 

山田さんはひとり娘で、独身。大学卒業後からずっと会社員として働いています。

 

「10年前に父が亡くなってから、母はずっと実家でひとり暮らしをしていました。お友達も多く、趣味もあり、それなりに充実した毎日を過ごしていたようなのですが…」

 

元気とはいえ、80代半ばになると次第に足腰が衰えはじめます。山田さんの母親も日常生活にサポートが必要になってきました。

 

「私の携帯に、母からしょっちゅう電話がかかってくるようになりました。平日の日中は仕事ですので、すぐ出られるときばかりではありません。それに、サポートを要請されても、勤務先から実家までは電車で1時間以上かかります。毎回の対応は難しいのです…」

 

山田さんは頭を抱えています。

あなたさえうちに戻れば、すべてが丸く収まるのに…

「週に何度か介護ヘルパーさんに来ていただいていたのですが、それではケアし切れなくなりました。ヘルパーさんからも説得してもらい〈どうしてもいやなら家に帰ればいいから〉といって、介護施設へ入ってもらったのです」

 

しかし、一度は納得したかに見えた母親ですが、しきりに自宅へ帰りたがり、山田さんを困らせています。

 

「なにかというと〈あなたさえうちに戻ってくれば、すべてが丸く収まるのに〉〈もう十分働いたでしょう? 好き勝手しないで、いい加減ママのそばにいてちょうだい〉と繰り返して…」

 

「私にも生活がありますから、仕事を辞めるという選択肢はありません。母はずっと専業主婦で父に守られていて、ちょっと世間知らずなところがあるのです」

 

生活拠点が都内にあり、職場に近いエリアに単身用のマンションを購入している山田さんは、横浜市郊外の広すぎる実家に戻る予定はありません。

 

「実家があるエリアは、あと10年もすればさびれてしまうのではと不安です。早めに手放して、身軽になっておきたいのですが…」

母親が認知症になれば、あらゆる手続きが困難に

筆者と提携先の税理士は、山田さんの母親の資産状況についてくわしく伺いました。

 

山田さんの実家は横浜市の郊外にある一戸建てで、各駅停車しか止まらない駅から徒歩30分。自宅建物は築古の4LDKで、固定資産税や毎年の庭木の手入れのため、毎年30万円近い持ち出しがあるといいます。また、不動産の名義は母親です。

 

「現金は、父の相続時には2,000万円ほどありましたが、今回の老人ホームの入所のときに確認したところ、1,000万円に減っていました。たぶん、お友達との旅行や買い物で使ったのでしょう。年金は月に14万円程度。老人ホームの費用については、入所年数にもよりますが、年金といまの預貯金では、足が出るかもしれません。それもあって、早く実家を手放したいのです」

 

筆者と税理士からは、高齢となった母親の安全面からも、山田さんの今後の生活面からも、母親には老人ホームで生活をしてもらったほうがいいこと、そして、実家を売りたいなら、母親の意思確認が確認できる間に対処する必要があるとアドバイスしました。

 

いまのところ認知症の兆候はない母親ですが、介護施設入所後、急に認知症の症状が進行してしまうケースもあります。

 

しばしば問題になるのが、介護費用の不足を補うため実家の不動産を売りたいのに、認知症で本人の意思確認ができないため売却できず、行き詰るケースです。本人の意思確認ができない以上、不動産の売却は相続発生まで不可能になってしまいます。

 

筆者と税理士がこの事例を交えて説明したところ、山田さんは「すぐ母に話します」といって足早に帰宅されました。

無事に実家を売却…50代娘は安堵のため息

山田さんに自宅売却のアドバイスをしてから1ヵ月後、筆者のところに電話がありました。

 

「施設に行って母を説得し、なんとか実家の売却を了承してもらうことができました」

 

山田さんの母親は泣いていたそうですが、

 

「私が仕事を辞めて母の介護に専念するなんて、無理に決まっています。仕事を辞めたら、私はどうやって生きていけばいいのでしょうか。私だってあと数年で還暦です。不便な実家に戻るなんてありえません」

 

この話を繰り返したところ、母親はあきらめたのか、静かになったということでした。

 

その後、母親の万一の際の介護費用確保のため、1円でも高く実家を買ってくれるところを…と、血眼になって探したところ、地元の友人が紹介してくれた不動産会社から2,500万円という価格が提示され、即決。すぐに手続きに着手してもらったとのことでした。

 

「いらない家が現金になり、介護費用に回せるお金が増え、安心しました」

 

山田さんはそういうと、ホッとした表情を見せてくれました。

 

「母とはあまり性格が合わなくて、どちらかというと、母のほうから距離を置かれていました。父の相続のときには〈あなたに迷惑をかけないために、全部私が相続する〉といっていたのですが、体が弱ってくると、気持ちも考えも変わるのでしょうね」

親が認知症に…困ること・できなくなること

認知症となり「意思能力が低下した状態」になってしまうと、契約行為等が一切おこなえなくなります。相続や資産に関連しては、以下のようなことができなくなれます。

 

●金融機関での預金の払出、振込、預金の解約、借入など

●生命保険の契約締結、解約、変更など

●株や債券の取引など

●不動産の売却、購入、賃貸、土地測量、建替え、改修工事など

●現金、住宅や教育などの資金贈与など

●遺言書、遺産分割協議、民事信託契約など

 

親の財産を介護費・生活費に充てたくても、親が認知症となり意思能力が低下していれば、実現は極めて困難です。日常生活にまつわる身近なことから、不動産の売却なども含め、あらゆる場面で「手も足も出ない」状況に陥ってしまいます。

 

そのような事態を回避するには「民事信託」契約も有効な選択肢のひとつです。

 

民事信託契約があれば、親が認知症になっても、財産を託された子どもが親の代わりに、不動産や金融商品の売買、賃貸物件の運営などの契約ごとができるため、認知症で空白期間が生じる心配がありません。

 

また、将来的な活用の予定のない、空き家となった自宅は、所有者である両親が認知症になる前に売却することをお勧めします。実家への思い入れが強い方もいらっしゃいますが、一時的な感情で売却をためらうと、老親の介護費用の捻出ができない、時間の経過とともに物件価値が損なわれて売れなくなる、マーケットが変化して売れなくなる…といった、厳しい状況に陥るリスクがあります。

 

売却をためらってタイミングを逃せば、負担のかかる財産を抱え続けることになり、本当に大変です。のちのち後悔しないためにも、一時の感情に流されることのないよう、冷静な判断が求められます。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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