(※写真はイメージです/PIXTA)

日経平均株価の“バブル超え”に沸く日本ですが、実質賃金は「22ヵ月連続マイナス」で、個人の消費支出も冷え切っています。しかし、日本はいま“異例の人手不足”……つまり「我々は忙しいけれども貧しい状態」だと、フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏はいいます。さまざまなデータをもとに、日本の実体経済についてみていきましょう。

米国が抱える「4つ」の債務

他方で、債務を考えるとむしろ真逆で、金融緩和が求められます。米国が抱える4つの債務を挙げます。

 

<緩和を求める4つの債務>

 

①政府の債務:国債

②中央銀行の債務:準備預金

③市中銀行の債務:預金

④企業の借り入れや商業用不動産の借り入れ

 

①政府の債務:国債

まず、1点目が政府の債務である国債です。米国の連邦政府債務・GDP比は、第2次大戦以来の高水準です。債務を持続可能にするためには低金利が求められますし、低金利の必要性を含め、インフレ期待が惹起されても不思議ではない状況です。

 

[図表5]米国:連邦政府債務残高(GDP比)
[図表5]米国:連邦政府債務残高(GDP比)

 

また、同じことですが、連邦政府による利払い費はこのところ急増しています。この動きがエヌビディアの株価やビットコインの価格に似ていると感じるのは筆者だけでしょうか。

 

[図表6]連邦政府の経常支出:利払い費
[図表6]連邦政府の経常支出:利払い費

 

②中央銀行の債務:準備預金

2点目が中央銀行の債務である準備預金です。米連邦準備制度理事会(FRB)は、準備預金への支払利息が保有資産からの受取利息を上回って赤字になり、現在は事実上の債務超過です。

 

[図表7]FRBの負債勘定科目『その他の負債・資本』の内訳
[図表7]FRBの負債勘定科目『その他の負債・資本』の内訳

 

貨幣を発行する主体が、赤字や債務超過を継続することも、あるいは、それらを解消のためにいまここで低金利に戻すことも(あるいは政府がFRBに出資して財政赤字を増やすことも)、どちらの道を進んだとしても、不換紙幣という「ただの紙切れ」に対するひとびとの信頼が崩れるきっかけになりえます。

 

③市中銀行の債務:預金

3点目は、市中銀行の債務である預金です。過去1年のあいだに、銀行からは1兆ドル超の預金が流出し、ほぼ同額がMMFにシフトしています。

 

[図表8]米国家計の預金残高とMMFの保有残高の変動(2023年9月末時点、対2022年9月比)
[図表8]米国家計の預金残高とMMFの保有残高の変動(2023年9月末時点、対2022年9月比)

 

銀行は保有資産の利回りが低いために預金金利を上げらない状態であり、そうである以上、逆に利下げによってMMFの利回りを下げないと、銀行からの預金流出は続き、やがて貸出を減らす必要が出てきます。

 

[図表9]短期金利群と銀行の預金金利
[図表9]短期金利群と銀行の預金金利

 

④企業の借り入れや商業用不動産の借り入れ

すると、4つ目の債務である、民間企業や、オフィスやショッピングモール、ホテルなど一部の商業用不動産の借り入れに問題が生じます。

 

[図表10]米国のCMBS(商業用不動産担保ローン証券)の信用スプレッド(対米国債)
[図表10]米国のCMBS(商業用不動産担保ローン証券)の信用スプレッド(対米国債)

 

市中銀行には利下げか、そうでなければ経営が悪化して流動性の再供給が必要になるとみられ、どちらに進んでもインフレ期待につながる可能性があります。

 

日本は利上げが始まっていないので、こうした問題が見えていないだけです。

 

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重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュート

首席研究員/マクロストラテジスト

 

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