カード発行枚数を増やした盛岡市「MORIO─J」の戦略

前回に引き続き、地域通貨事業のモデル事例として、岩手県盛岡市の「MORIO─J」について見ていきます。

普及率の高い既存のカード会員と加盟店がベース

MORIO─Jの普及がスムーズに進んでいる理由としては、市内にJOYポイントという磁気式カードを利用したポイント制度があったことが挙げられます。このポイントカードの累計発行枚数は約20万枚(稼働は約10万枚)で、盛岡市の人口が30万人弱と考えると非常に普及率が高いといえるでしょう。

 

MORIO─Jカードは、このカードの会員と加盟店をベースとしています。これから地域通貨の導入を考えている地域の中にも、盛岡のケースと同じように既存のポイント制度がある地域があるかもしれません。通貨の一定量の流通を確保するという点で、既存のポイント制度を地域通貨制度のベースにできるのは大きなメリットです。

 

ただし、カードの種類を変えるだけでは利用者のメリットは変わりません。重要なのは商店街ポイントを超えた地域通貨だからできる新たなサービスや連携を増やし、通貨としての価値を高めていくことです。MORIO─Jの場合は、既存のJOYポイントをベースとした上で、新たに店舗を増やし、前述したような市のサービスを通じたポイント発行を行い、将来的には交通機関や地域のスポーツチームなどと連携させるという構想があります。

民間企業や行政との連携で「通貨の付加価値」を向上

新たな取り組みとしては、例えば時間貸駐車場(パーク24グループ)と提携し、タイムズ駐車場の利用時にMORIO─Jポイントが貯まったり、MORIO─Jポイントで駐車料金を支払えたりするサービスがスタートしています。商店街、行政、ナショナルチェーンのほか、民間企業という新しい参加者(煙突)を加えながら通貨の付加価値を向上させています。

 

また、行政との新たな連携として、プレミアム付き商品券をMORIO─Jカードを利用して発行する取り組みも実施しました。基本的な仕組みやプレミアム率は紙のプレミアム付き商品券と同じですが、ポイントが入ったICカード(プレミアムJポイントカード)で発行します。

 

使用方法は普通のMORIO─Jカードと同じで、1円単位で決済が可能。紙の商品券は1枚1000円が最小単位で、1000円未満の買い物ではお釣りが出ませんが、1円単位で利用できるため、カードであれば少額の買い物でも利用しやすく、その点で利用者にとってメリットがあります。また、プレミアム分のポイントを使い切ったら、通常のMORIO─Jカードとして引き続き使うことができるため、結果としてカードホルダーが増えるという効果もあります。

現場での管理・集計業務が楽になる「カードの商品券」

紙の商品券に比べ、ICカードでの商品券は、運用する側にとっても大きなメリットをもたらします。商品券は、金券扱いですから運送や保管の際も現金と同じレベルのセキュリティが必要です。また、期間中の利用管理や集計管理も現場では大変な気を使います。

 

特に集計管理は手作業で不正利用の有無を確認しながら枚数の数え直しを何度も実施しています。店舗にとっては、販売した金額をできるだけ早く現金化したいニーズがありますが、紙の商品券の場合は集計と精算にどうしても時間がかかります。

 

一方、カードの商品券は、価値をチャージするまではカードコストの価値しかありませんので、現場での対応は紙に比べて随分楽になります。カード方式の最大のメリットは集計管理業務が圧倒的に容易であることです。

 

日々の利用状況を把握できますので、どの店でどれくらい利用されているか、全体として何%くらい利用されていて未使用金額がどれくらいあるかを数値で確認できることは大きなメリットです。紙の商品券は、期間終了まで正確な数字は把握できないので、運用側はやきもきすることになります。

 

カード方式のデメリットは、カードや端末の初期投資ですが、紙の商品券も偽造防止のホログラム処理などでICカードよりは安いとしても紙の割には高コストになりがちです。店舗での端末もネックになりますが、盛岡の場合はMORIO─JのためのWAONカードや店舗端末を利用可能であったことは大きなメリットでした。

 

カード代や端末代は高額なイメージがありますが、集計管理のための人件費や金券としての運送・保管費用などを考慮するとカード方式の方が安いかもしれません。ましてや、三年間などの期間での計算では、カード方式の方が安くなると思います。

 

また、紙の場合の偽造・変造の問題や、紙の運用面では市中に出回らず「自家消費」として利用されるなどのリスク回避のメリットもあります。

 

盛岡での商品券の実際の発行数は、紙の商品券が84万枚(8.4億円)、プレミアムMORIO─Jポイントが4.08億ポイント(4.08億円)で、ポイント全体の3分の1がカードで発行されました。プレミアム商品券は、MORIO─Jの流通量を大幅に増やすことになりましたし、加盟店を増やすことにも大きく寄与しました。今後も、商品券を始めとした交付金などを、MORIO─Jを利用して発行することが期待されます。

フェリカポケットマーケティング 代表取締役社長

1984年、大手IT企業入社。8年間の欧州駐在を経て2001年ICカードフェリカ事業の国内・海外営業の責任者に。交通や電子マネー、社員証など事業は軌道に乗っていたものの「交通や電子マネーではなく、衰退しつつある地域経済のために活かすことはできないか」と考えるように。地域活性のためには、大企業だけでなく、中小企業や個人店舗もICカードの利便性を享受できるような仕組みが必要とし、2008年1月フェリカポケットマーケティング株式会社を設立、社長に就任。現在でも全国各地を飛び回り、地元の方々との直接のコミュニケーションを第一として、現場主義を貫きながら「地域を元気にする」仕組み作りに奔走している。

著者紹介

連載地域内でお金が回る仕組み「地域通貨」の活用法

本連載は、2016年9月9日刊行の書籍『地域通貨で実現する 地方創生』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

地域通貨で実現する 地方創生

地域通貨で実現する 地方創生

納村 哲二

幻冬舎メディアコンサルティング

本書は、地域活性化に興味のある人や自治体・企業・団体に向けて、地域活性化のための1つの有効な手段と思われる「地域通貨」を軸にした、事例紹介を含めた参考書・指南書です。 地域活性化は都市・地方の双方にとって喫緊の…

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