(画像はイメージです/PIXTA)

M&Aは、売り手と買い手の両方を見つけられなければ成約させることはできません。そのなかでも、従来のM&A仲介は、売り手が基点となった案件がほとんどです。なぜでしょうか。M&A仲介のプロが解説します。※本連載は、M&A仲介業務を行うByside株式会社の代表取締役である川畑勇人氏の著書『中堅・中小企業のM&Aを成功に導くByside FA』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

売り手基点のM&A仲介で、滞留案件が増加する

M&Aは、売り手と買い手の両方を見つけられなければ成約させることはできませんが、これまでの中堅・中小企業M&Aの仲介会社では、まず売り手を探し、売り手基点でマッチングするモデルで業務が進められてきました。これは基本的に中堅・中小企業を対象としたFAの場合でも同様です。

 

仲介会社でのM&Aコンサルタントの業務は、売りニーズを見つけてきて案件としてまとめてから買い手を見つけてマッチングに進む、というのが基本的な流れです。

 

売り案件がなければその先に進みようがないというのが、M&AコンサルタントやFAの常識的な考え方です。

 

もちろん実際には買いニーズが基点となるM&Aも存在しますが、はるかに難易度が高くなるため、通常のM&A仲介会社においては多くありません。売り手を探し、それに見合った買い手を探すというのがM&A仲介会社の業務の前提となっています。

 

仲介会社に勤めるM&Aコンサルタントが入社後すぐに教えられるのは、売り案件を探すためのアプローチ方法です。そしてアプローチができたら、売り手の気持ちに深く入り込み、決して離さないように固くグリップすることです。売り手と買い手との間に立って、中立の立場からマッチングをする仲介とはいいながら、実際のところ入社直後の目線は、8割方売り手に向いています。

 

売り案件をつかんでさえいれば、仮に1つの買い手とのマッチングに失敗したとしても、別の買い手を探してきて成約できる可能性があります。売り案件を手放したり譲渡意思が消滅したりしてしまえば、できることはなくなります。またゼロから売り手にアプローチをしなければならないのです。

 

そうするとM&Aコンサルタントは、とにかく売り手へのアプローチやグリップが重要だというマインドになっていきます。ただし売り手基点で業務をスタートし、売り手へのアプローチに注力して、売り案件の数を増やしても、実際は買い手を見つけられなければ滞留案件が増える結果となります。

 

現状そのようなM&A仲介会社が増えているのは、M&Aコンサルタントの多くが、売り手探しよりも買い手探しのほうを不得手としているためなのです。

 

その理由の一つとして、売り手と買い手ではニーズの質が異なるのに、M&Aコンサルタントには売り手基点というマインドが染みついていることが挙げられます。

 

また、実際に買いニーズの探索や買い手へのアプローチを経験できる業務機会が少ないという点もあります。

売り手探索と買い手探索の質の違い

売り手の探索においては、確度や温度感の差はあるにしても、「譲渡ニーズは存在する」という前提があります。特に、現在の中堅・中小企業M&Aの大半を占める事業承継のための譲渡ニーズの場合、一定の数が存在することは明らかです。事業承継の譲渡ニーズには期限があることも特徴で、ほとんどの場合は数年以内に譲渡したいというニーズとなります。

 

あいまいなニーズの売り手も増えてはいますが、いまだに中堅・中小企業M&Aの大半を占める事業承継ニーズに限っていえば、かなり具体的で確度の高いニーズが存在しています。事業承継が成功するか、あるいは廃業するまでは変わらないため、売り手候補へのアプローチとして、「将来の事業承継を見据えて、M&Aをご検討しませんか」というセールストークが成立します。

 

①あいまいで確度が低い買いニーズを探し続ける買い手側の探索

一方、買い手の探索では事情が異なります。

 

買い手においては、そもそもあらかじめはっきりした買いニーズが存在するわけではなく、売り案件を見せられて、初めてそのニーズが明確になることが多くあります。

 

買い手に事業領域拡大意図や資金的な裏付けといった、いくつかの前提条件は必要です。しかし「このような売り案件がありますが、譲り受けを検討しませんか」と提案されて、初めて「事業領域が隣接していてシナジーも見込めそうだ」「このM&A投資なら、◯年で回収できそうだ」といった検討が具体的に始まるのです。

 

具体的な売り案件がない段階で、漠然と「将来を見据えて、何か会社を買いませんか」とセールストークをしても、買い手は投資の検討をしようがありません。

 

②確度の高い買いニーズにも、マッチする売り案件が必要

あらかじめ確度の高い買いニーズが存在する場合もあります。例えば、こういう技術をもった企業が欲しいとか、このエリアでチェーン店舗展開している企業が欲しい、といったニーズです。しかし、そのような確度の高いニーズをもっている企業を探すことがまず大変です。企業にアプローチできたとしても、具体的に提案できる手もちの売り案件がなければ、相手にしてもらえません。

 

③顕在化した買いニーズも常に変化している

顕在化した買いニーズを一度把握しても、そのニーズは常に変化しています。

 

ある企業に、特定部門の強化のために一定の業務ノウハウや技術をもつ企業の譲り受けニーズが生じたとします。その時点でいい売り案件があれば、もちろんM&Aにより譲り受けしますが、ちょうどいい案件がなかったからといって、その部門を強化せずに放置しておくということは考えられません。自社内で人材を育成してノウハウを蓄積するなり、代替手段を用意するなどして対応を図るはずです。

 

事業環境の変化が速いこの時代に、「1年前におっしゃっていたニーズに合いそうな売り案件があったのですが、検討なさいませんか」と言っても、すでにそのニーズがなくなっている可能性は高いです。事業承継の売りニーズであれば、それが実現しない限りニーズが消えることはありません。

 

この点も、事業承継の売りニーズとは、まったく異なる買いニーズの特徴です。

 

 

川畑 勇人
Byside株式会社 代表取締役

 

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※本連載は、川畑勇人氏の著書『中堅・中小企業のM&Aを成功に導くByside FA』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

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川畑 勇人

幻冬舎メディアコンサルティング

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