子のいない夫婦が決意した、姪への「生前贈与」
平成24(2012)年7月、大手商社の株式会社ABCに勤める柿村隼人さん(当時60歳・仮名)は、妻・洋子さん(当時41歳・仮名)との間に子どもがいないことから、妻と相談して妻の弟で地元スーパーの契約社員である吉田房雄さん(当時39歳・仮名)の長女・杏里ちゃん(当時5歳・仮名)に、毎年60万円から110万円までの余裕金を贈与して、さらに妻と吉田家との信頼が一層増すことに成功したときは、できればその妻の老後の面倒をみる手助けをしてもらいたいことを伝えました。
生活も裕福で、弟・房雄さんとの仲もよい洋子さんも異議なく、房雄さんに相談したところ、後のことは分からないが、仲よくすることはよいことだと、条件なしの贈与であればよいということになりました。
贈与者の隼人さんは早速贈与契約書を作成し、受贈者の杏里ちゃんの親権者として房雄さんに贈与契約の代理人になってもらい、通帳を房雄さんにつくってもらって、その管理を房雄さんの妻・佳代さん(当時32歳・仮名)にお願いすることにしました。
第1回は杏里ちゃんのお誕生日会として、吉田家の家族を柿村家が招待し、平成24年10月1日夕方5時から6時半にかけて、料亭で食事会を開きました。その席上、贈与契約の話を共有し、名目上、杏里ちゃんの成長を見守る親族の会として、楽しく過ごしました。
隼人さんが杏里ちゃんの通帳に振り込んだ110万円の振込票の写しと、贈与目録を杏里ちゃんに手渡しました。ちょっとした「連年贈与の贈呈記念式」となりました。隼人さんは両家で話に花が咲き、楽しい時間を過ごせたことに満足し、記念写真を撮ってアルバムに残すことにしました。
贈与契約書作成の日時を証明する「確定日付」の取得
杏里ちゃんや親権者の署名捺印、贈与理由等の記入等がされた贈与契約書を、後日隼人さんは公証役場に持っていって「確定日付」を取りました。そうすることで、どんなに時間が過ぎても「そのとき」の記録であったことが証明できるのです。さらに会社で付き合いのある税理士に頼んで、税務に明るくない吉田家の人たちに代わって、杏里ちゃんの贈与税の「ゼロ申告」もお願いしています。
<事例のポイント・注意点>
柿村隼人さんの贈与とその贈与契約、およびその付随的な配慮は、とてもしっかりしていて、何十年後までも証拠として残る資料としては申し分のないものです。何らかの問題で連年の贈与が、定期贈与契約で何十年後かに一括贈与とみなされるリスクが表面化したとき、この長年にわたる平素の「証拠保全」はきわめて決定的な証拠能力を発揮します。
長い期間の証拠保全は、柿村家と吉田家の親睦を深める楽しいイベントとして「習慣化」するのがよいでしょう。また、子どもの成長日記に連年贈与の話題を記載しておくこともよいでしょう。日記保存が節税対策にもなるのです。