(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢化により、これから日本で巻き起こると言われている「相続ラッシュ」。ここで問題となるのが、不動産の相続に際して発生する多額の「相続税」とどう向き合うか、という問題であり、特に「生産緑地として登録されている所謂“都市農地”には注意が必要」と、不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏は言います。牧野氏の著書『負動産地獄 その相続は重荷です』より、詳しく見ていきましょう。

ついに迎えた「生産緑地2022年問題」とは?

この生産緑地について最近問題となったのが、登録されて固定資産税の減免を受けている農地のうち、約8割相当が、2022年に登録期限30年満了を迎えるという、生産緑地2022年問題です。

 

これまでの制度では期限を迎えると、生産緑地の所有者は以降、宅地として通常通りの課税を受けるか、売却しなければならないことになります。さらに売却する場合は市町村長への買い取りも請求できるため、役所に買い取り請求が殺到する、また宅地として一斉に売却されると、大都市郊外部の地価が暴落するとの憶測が飛び交ったのです。

 

ほとんどの市町村にはそれだけの農地の買い取りに応じる財政余力があるはずがなく、その結果として郊外部の土地が暴落することを避けたい国は、2018年4月に、あらたに特定生産緑地制度を設定。対象となる農地について特定生産緑地に登録すれば、さらに10年延長でき、その後も10年毎に延長できる仕組みに改正しました。

 

この制度改正でこの問題は解決した、と多くの関係者が胸をなでおろしました。実際にある調査会社によれば、この改正で対象となる農地の所有者の多くが、10年の延長を選択して特定生産緑地への登録を行うとのアンケート調査結果も得られ、この安堵を裏付けるものといわれました。

 

しかし、この安堵の裏側には、所有者たちの間にこれから頻発する相続の問題が抜け落ちています。

 

都市農地の所有者の多くが高齢化しています。それもそのはずです。私がJR中央線沿線で農地所有者にあれこれ提案していた時、相手の年齢は50歳代から60歳代でした。あれから30年もたてば、そろそろお亡くなりになったり、入院や福祉施設などに入所をしていてもおかしくない年齢になっているはずです。

 

まだ元気に農業を続けている人であれば、いきなり22年で農業をやめるとは言い出さないでしょう。相続が発生するまでとりあえず、特定生産緑地に登録をしておく、というごく当たり前のアンケート結果だとも考えられます。

 

いっぽうで彼らの息子、娘はどうかといえば、そのほとんどがサラリーマンになっていて、農業を継ぐ意思のある人は極めて稀です。

 

生産緑地制度が改正された92年には1万5,109haが登録されていた都市農地も、2019年までの期間に約2割にあたる2,900haが減少しています。これらの多くが相続の発生等によって、生産緑地を継続せずに宅地化の道を選んだものであることは容易に想像されます。

 

生産緑地を相続することは、この農地をどうするかの決断を迫られることになります。つまり、親の遺志を継いで農業を行うか、生産緑地を解除して宅地として売却する、あるいは活用するかの選択となります。

 

農業を続ける場合には、相続手続きを行って所有権移転登記をしたうえで、地元の農業委員会に届け出て生産緑地を継続します。その際、相続税は一定の要件を満たしていれば、納税猶予の措置が受けられます。

 

具体的には通常宅地としての評価額と農業投資価格との差額分についての納税が猶予されるというものです。農業投資価格とは、当該土地を恒久的に農業用として利用する場合に、通常取引で成立する価格のことを言います。この額はかなり低い価格となりますので、相続税の負担は生産緑地を解除するまでは猶予されることになります。

 

しかし、ほとんど農作業を行ってこなかった相続人である息子や娘に、今更農業をやることができるでしょうか。特に日本人の多くが長生きになったため、80歳代後半から90歳くらいで亡くなり相続が発生した場合、子供はすでに60歳を超えているケースも少なくありません。もはや体力的にも農業を継続するのはしんどいはずです。継いだところでもう間もなく自身の相続まで心配しなくてはならなくなります。なかなか厳しい話なのではないでしょうか。

 

ならば生産緑地を解除して売却しよう、という選択をしがちです。しかし生産緑地に登録されている農地の場合は、まず土地のある市町村に買い取りを申請できると言いましたが、買い取ってくれるような余裕のある自治体はほとんどありません。市町村に買ってもらえない土地は、宅地として扱うことになります。

 

そこに襲い掛かってくるのが膨大な額の相続税です。

 

農地は通常の宅地と異なり面積が広大になりますので、相続税を支払うだけのキャッシュを持っている相続人は稀です。あわてて売却しようにも、すべてがうまく売れるとは限りません。宅地として価値が出るような、道路付け、土地の奥行き、駅からの利便性、容積率(敷地面積に対して建設できる建物面積の割合)などの都市計画における一定の条件を満たさないと、なかなかマーケットで右から左に売れることはないのです。

 

売却できないと相続税の支払いにも苦労することになります。

 

生産緑地に登録されている都市農地、実は意外と厄介者といった理由はここにあります。早めに有効活用などの対策を練っておく必要があるのです。親が喜んで農業をやっているから温かい目でみよう、などと悠長なことを言っている場合ではありません。迫りくるXデーに備えていなければ、今後大量に発生する相続ラッシュの世の中で立ち往生することになるのです。

 

 

牧野 知弘

 

オラガ総研 代表取締役

 

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※本連載は、牧野知弘氏の書籍『負動産地獄 その相続は重荷です』(文藝春秋)より一部を抜粋・再編集したものです。

負動産地獄 その相続は重荷です

負動産地獄 その相続は重荷です

牧野 知弘

文藝春秋

資産を巡るバトルでも相続税対策でもない。 親が遺した「いらない不動産」に悩まされる新・相続問題が多発! 戦後三世代が経過していく中、不動産に対する価値観が激変。 これまでは相続財産の中でも価値が高いはずだった…

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