失業後に別のセクターで活躍すれば「最適再配分」が実現
役職定年になったときには、すでに年齢もかなり高くなっていますし、少なくともその企業においては役職者としての権限がなくなってしまいます。高齢の平社員になってしまうのです。こうなると、もう余生をそこで送るしかありません。
でも、30代の時点で「君は残念ながら経営幹部にはなれない。この会社で働いても部長止まりだ。もちろん、それを承知のうえで働き続けてもいいし、他の企業に移籍して、実力を発揮してもらってもかまわない」と言われれば、早めにキャリアチェンジをすることができます。
経営幹部の道は閉ざされても、大企業に入って活躍できるだけの実力はあるわけですから、他の会社でその実力を発揮できる可能性は、十分にあります。
特に、優秀な人材を大量採用している大手金融機関などは、最近は50歳の時点で役職定年を迎えるケースも少なくありません。そこから10年以上、余生のような会社員生活を送るのはあまりにも忍びないことですし、これはある意味、優秀な人材を飼い殺しにしているのと同じです。
それならば、もっと早い段階で「どこまで出世できるのか」をしっかり伝え、自分をより活かせる新天地で働いてもらったほうが、その企業というよりも、日本全体のためになります。
失業だって同じです。必要のない業種・部署で働いていた人が失業し、必要とされる業・部署に移籍する。それによって最適再配分が実現するのです。
ただし、同じ業種・部署に入り直すのは、会社は変わっても単なる転職であり、これでは最適再配分にはなりません。
大事なのは、ある知識や経験を持っている人が、そういう部分の劣っている会社に再就職することです。まったく別のセクターに行くことが、人材の最適再配分が機能するうえで必要になります。
たとえばかつて、日本長期信用銀行と山一證券という、大きな金融機関が相次いで破綻しました。非常に暗いニュースとして取り上げられましたが、このとき、失業した人の多くは、金融以外の大企業の財務部門などに再就職しました。
その結果、日本の各業界・企業において、財務や金融に関する能力が少なからず向上したものと考えられます。これこそが、失業の最大の効果なのです。
松本 大
マネックスグループ会長
※本記事は『松本大の資本市場立国論』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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