困った融資相談
関東銀行の課長代理である黒田は日ごろからソリューション営業に力を入れている。「顧客の意向に寄り添った提案」をモットーとし、金融業務以外においても不動産や税務、IT関係など複数の資格取得に努め、専門知識をもとに顧客の心に刺さる提案を行っている。
顧客からも黒田の提案に対するお褒めの言葉をいただくことが多く、他行競合においても提案で負けることはほとんどない。
過去に黒田は自分の数字(目標)ありきの提案を行っていた時期があり、顧客の怒りを買うこともしばしばであったが、数年前に出世は捨てたつもりで顧客軸の提案に思い切って舵を切った。
結果としては「後から数字がついてくる」ことが多く、ここ数期においては頭取表彰者の常連となっており、行内からも一目置かれる存在になっている。
黒田の新規案件の融資実行が完了した、とある日。過去に取引のあった税理士から不動産投資で困っている友人がいるので一度話を聞いてくれないか、との相談の連絡が入った。
黒田は一度会って話を聞かせて欲しいと伝えた。当該不動産は支店から車で1時間ほどの場所であったことから、現地で依頼者(税理士の友人)と会ったうえで不動産についても併せて説明を受けることに。
面談および現地調査
黒田が現地に到着すると、肩を落とした依頼者がすでに到着しており、名刺交換のうえ自己紹介を済ませた。依頼者の加藤(45歳)は中小メーカーの課長職であり、午後の休みを利用して現地へ来たとのことであった。
腫れ物に触るかのように、古ぼけたこの物件を見に来るのも久しぶりとのことであり、黒田が経緯を確認すると、明らかに不動産知識の乏しさにつけこまれた不動産投資であることを感じた。
加藤は数年前に当該不動産を友人からの紹介を受け、とある不動産会社から購入しており、購入後初期はサブリースにより返済に支障もなく円滑に進んでいたが、サブリースを解除(いつでも解除可能な契約内容であった)されたとたんに、収入が大きく下がり、ローン返済と逆ザヤに陥ったとのことである。
加藤の年収は1,000万円を超えているが、現状では、子供のために貯蓄しておいた学資保険なども解約し返済に充てているとのことであり、生活にも大きな支障がでているようだ。
黒田は加藤の現在の生活状況を思うと心苦しいものの、無計画に不動産投資を開始してしまった点では自業自得でもある、とも思いながらひととおりの説明を受け、当該不動産にかかる資料の写しを加藤から受領した。
加藤と解散したのち、黒田は加藤から受領した「よく整理された」資料を見ながら、対象不動産をくまなく調査した。
黒田は内心、「加藤さんは非常にまじめで誠実な人で、正常に物事の判断ができれば本来このような杜撰な不動産投資に手を出すようなことはなかったのだろう」と感じていた。
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