「すり合わせ9ボックス」は実際どう使えるのか
前回記事では、対話すべきテーマがわかる「すり合わせ9ボックス」を紹介しました(⇒関連記事:『口下手マネジャーでも「対話がとてもうまくいく」9つの“トークテーマ”【1on1コミュニケーションの専門家が解説】』を参照)。
実際、すり合わせ9ボックスは、どのようなタイミングで活用すると効果的なのでしょうか。その3つの使用タイミングについて紹介します。
【タイミング①】対話の準備に使う
1on1などが始まる前に、今まで話したボックスについて思い出します。それを踏まえて、その日のタイミングで話した方がいいボックスがないかを確認します。とくに、部下に関する事柄で、変化があったことについて考えてみてください。ボックスを見ながら思いつく変化です。「業務内容の変化」「人の出入り」「新しい施策や決まりごとの検討」「他部署や会社自体にあった変化」…そうした事象について部下と考えをすり合わせていくと、変化の中でも、部下は高いパフォーマンスを保てるでしょう。
【タイミング②】対話中に使う
対話中に、9ボックスのシートを部下と一緒に見ながら対話していくことも効果的です。そうすると、部下も全体像をイメージしながら対話ができますし、2人で対話をつくっていく雰囲気ができ、信頼関係も築けていくでしょう。さらに、シートを見ながら話を進めていると、ボックスの項目を見ているだけで、脳は質問されているような状態になり、インスピレーションが湧きやすくなります。また、あるボックスから別のボックスへと、文脈に沿う形で話をつなげて展開させやすいという効果もあります。もちろん、使用する場合には部下に9ボックスの説明をして、部下の合意を取るようにしましょう。
【タイミング③】対話後に振り返りとして使う
対話後に、振り返りとしてメモを記入することもできます。ポイントは、対話した内容の記録とそれを踏まえての所感です。「すり合ったかどうか?」「もう一度話す必要があるか?」など、次回のアクションにつながる書き方をするとよいでしょう。
これらのメモを毎回残しておくと、実際にどのボックスを部下と対話できていて、どこができていないのかが時系列のデータとして可視化できます。これを俯瞰して活用することで、場当たりでない意図的な対話が可能になります。
もちろん、このボックスが頭の中にあれば、シートを直接使用しなくてもいいかもしれません。しかしながら、最低限このフレームを頭でイメージしながらの活用は行っていただきたいと思います。
ここでは、実際にすり合わせ9ボックスにメモを記入して活用している、4人の事例をご紹介します(図表1~4)。
すべてのボックスを対話する必要はない
この9ボックスを人に紹介するとよく言われることがあります。
「えー、こんなに話せませんよ。全部話すのですか?」
誤解のないようにお伝えすると、この9ボックスのテーマすべてを、部下全員と対話する必要はありません。
この9ボックスは、組織にいる人が話すと良いテーマの1つの指標です。たとえば、新入社員は、一般的には業務レベルの話が多くなるでしょう。しかし、早々にキャリアについて悩む人もいると思います。また、中途入社者で、組織方針の深い理解よりは、まずは目先の業務理解の方が先という人もいるでしょう。一方、組織のマネジメントを志向する人であれば、組織レベルについての認知が高まることは、キャリア上のプラスにつながります。
このように、1人の人と全ボックスの話をする必要はありませんが、話すテーマの見通しを立てておくことは、部下との対話の助けになります。毎回、場当たり的に決めていくよりも、見通しがあってその時々で必要なことを話していく方がマネジャーも心にゆとりを持つことができます。また、部下としても何をどのタイミングで話すのかがわかっていると、準備ができて上司同様安心感が持てます。
実際、この9ボックスを活用し、対話する頻度を図表5のように定めている方がいます。
基本的には、週次で1on1を実施して業務関連のことをメインに話していますが、そこから文脈に沿う形で、他のテーマについても話を派生させているとのことです。
あくまで目安ではありますが、こういったプランをつくることでヌケモレがなくなり、全体を網羅しているという安心感を得ることができるのです。
対話型マネジャーは9つのボックスをつなぐ「翻訳者」
このすり合わせ9ボックスを活用して、マネジャーはまず各ボックスのテーマについて部下と対話を行っていきます。そして対話を通じて、部下自身の考えを明確にし、マネジャーの考えとすり合わせていきます。
そして、その過程であることが起こります。それぞれのボックスでの対話が、少しずつ互いにリンクし始めるのです。
実際にあった女性社員とマネジャーのすり合わせの場面を見てみましょう。
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マネジャーが将来キャリアの話をしていたとき、彼女はこう語りました。「実は料理が好きで、料理を将来の仕事にしていきたいのです」
2年間一緒に働いていてそれを一切知らなかったマネジャーは、彼女の料理に対するこだわりをそれから30分聞き続けました。9ボックスでいうと、個人レベルの「将来キャリア」から「ライフスタイル」へ話がつながっていったのです。
話はさらに続きます。彼女は「今でもたまに料理をYouTubeにアップしているのですが、将来的にはもっと定期的にアップして、YouTuberとして活躍の場を広げていきたいのです」と言います。この話を聞いて、マネジャーは「そんなに甘い世界ではないよ…」と言いかけたそうです。しかしすぐに思い直して、その話を真剣に受け止めました。そう語る彼女の表情が、仕事ではまったく見せたことのないイキイキとしたものだったからです。
そして、彼女の料理の話を聞くうちに、「仕事との共通点があるのでは?」と感じ、こう質問しました。「ちなみに、料理ですごい能力を発揮してると思うんだけど、今の業務でやっていることや使っている能力が、料理に活用できることってあるの?」
すると彼女は「いろいろあります。ひと言で言うと段取力ですけど、1つのタスクを逆算して時間配分することです。あとは、マルチタスクも料理ではかなり意識してますけど、業務では何となくやってたところもあるので意識してやっていくといいかな、と思います」と答えました。ボックスは「ライフスタイル」から「パーソナリティ(能力開発)」へと変遷しました。
趣味の料理で行っていることが、今の仕事にも活きることを改めて実感できる。逆に、業務を意識して取組むことで、料理の腕前も上がるイメージが持てるようになる。さらに、それが自分の将来キャリアを考える礎を築くことにもつながっているということがクリアになり、今の業務にも意味を感じて専心できるようになりました。
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このように、マネジャーは各ボックスのテーマについて、まず女性社員にしゃべってもらいました。そこで多くの材料を引き出しながら、9つのボックスを俯瞰してつながりを見出します。そして彼女の話をうまく翻訳し、各ボックスのつながりを部下に感じてもらい、広く深い視野で物事を見ることができるようになりました。
マネジャーは、部下自身が無意識レベルで思っていることの翻訳者であり、組織と部下をつなぐ翻訳者、周囲との翻訳者でもあるのです。そして、この9ボックスは、マネジャーの翻訳作業を容易にするツールでもあります。
往々にして、組織の全体観が見えていない部下は、「自分がやりたいことと、今やっていることが結びつかない」などと言うことがあります。そのとき、「個人が持っているベクトルと組織のベクトルとをより合わせて、いかに太いものにしていくか」が、マネジメントの大きな役割であると私は思います。そのベクトルの細い糸がより合って、太いロープになっていると、部下が業務レベルでやっていることや成果が、個人のキャリアや成長に、そして会社への貢献につながっていると実感できるのです。
つまり、本書『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』でいう対話型マネジャーの役割とは、「各ボックスを深くすり合わせること」(図表6)と「各ボックス間をつないでいくこと」(図表7)にあるのです。
世古 詞一(せこ・のりかず)
組織人事コンサルタント
1on1コミュニケーションの専門家
1973年生まれ。千葉県出身。組織人事コンサルタント。1on1ミーティングで組織変革を行う1on1マネジメントの専門家。早稲田大学政治経済学部卒。
Great Place to Work® Institute Japan による「働きがいのある会社」2015年、2016 年、2017 年中規模部門第1位の(株)VOYAGE GROUP の創業期より参画。営業本部長、人事本部長、子会社役員を務め、2008年独立。コーチング、エニアグラム、NLP、MBTI、EQ、ポジティブ心理学、マインドフルネス、ストレングスファインダー、アクションラーニングなど、10以上の心理メソッドのマスタリー。個人の意識変革から、組織全体の改革までのサポートを行う。
著書に『シリコンバレー式 最強の育て方 人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング』(かんき出版)がある。
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