【対話術】口ベタ上司もマネできる!部下が「つい」しゃべってしまう“ウマい切り返し”【1on1コミュニケーションの専門家が伝授】

【対話術】口ベタ上司もマネできる!部下が「つい」しゃべってしまう“ウマい切り返し”【1on1コミュニケーションの専門家が伝授】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「今、組織では対話できるマネジャーが求められている」…そう語るのは、1on1コミュニケーションの専門家・世古詞一氏。同氏は、著書『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(日本能率協会マネジメントセンター)にて、口下手マネジャーでも対話がうまくいく“対話の型”とスキルを余すところなく紹介しています。本書より一部を抜粋し、今回は“しゃべってもらうスキル”の一つ、「相手の話を返す」を見ていきましょう。

【しゃべってもらうスキル】相手の話を返す

前回記事の通り、相手のために話に反応することはベースとして行ったうえで、さらに相手の気づきを促したり、本音を誘発したりするために行うことがあります。それは、相手の話を相手に返してあげることです。とくに、相手が話している中でキーとなる重要なポイントや、大きく気持ちが入っている、あるいは気になっている大事なポイントを、「〇〇なんですね?」というように相手に返します。カウンセリングではこれを「能動的傾聴」と呼びます(⇒前回記事:『【対話術】口ベタ上司もマネできる!「部下からどんどん話してくれる」ちょっとしたコツ【1on1コミュニケーションの専門家が伝授】』)。

 

これには一体どのような効果があるのでしょうか。まず、話し手としては、自分が発した言葉が相手から返ってくるので、「聞いてもらえている」と感じられて安心して話を進めることができます。とくに、相手の内面のことをじっくりと対話する場面で効果を発揮します。

 

たとえば、問題を起こしたAさんが部長に呼び出されてお説教された後、自分のデスクに戻ってきました。そのことを、直接の上司の課長に報告する場面です。

 

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Aさん:「さっき、部長に呼ばれて2人でみっちり、説教受けたんです」

 

課長:「えっ、部長と2人で? それもみっちりか」←(ポイントを相手に返す)

 

Aさん:「そうなんですよ(うなだれている様子)」

 

課長:「こたえたみたいだね。大丈夫?」←(相手の言葉になっていない気持ちも返す)

 

Aさん:「本当に、こたえました。心配いただきありがとうございます。でも、良かったと思ってるんです。というのは…」←(状態をわかってもらえていることで、安心して次のステップに進める状態になって話が湧いてくる)

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一方、話を返してもらえないと、どうでしょうか。

 

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Aさん:「さっき、部長に呼ばれて2人でみっちり、説教受けたんです」

 

課長:「うん」

 

Aさん:「(『うん』って課長は、この状況をわかってくれているのだろうか?)結構、話が長かったんですよ」

 

課長:「部長は昔からそうで、俺は半日くらい説教とかしょっちゅうされてたから」←(相手の話を受けて、自分の話をする)

 

Aさん:「あ、そうなんですね……」←(自分の大変な状況をわかってもらえなくて、その後の話ができなくなる)

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このように、自分の話を受けとめてほしい場面において、話を返してもらえると聞いてもらっている安心感とともに、話がどんどん湧いてくるのです。

相手の話を返すときの「3つのポイント」

さらに、具体的な相手の話への返し方について見ていきたいと思います。実際に、聞き手は相手の言葉を切り取って返していくわけですが、話の「どこ」を返すか、「どう」返すのかで、その目的や効果が変わってきます。これを、現場ですぐに使える形に3つにまとめました。図表1はその効果とポイントです。これに沿って、順に見ていきましょう。

 

イラスト:加納徳博 出所:世古詞一著『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(日本能率協会マネジメントセンター)
[図表1]話の返し方 効果とポイント イラスト:加納徳博
出所:世古詞一著『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(日本能率協会マネジメントセンター)

 

【ポイント①】共感の返し――感情を合わせていくことで信頼関係を高める

1つ目は「共感」の返しです。相手が感情的なとき、つまり怒ったり、悩んでいるようなときに、感情を合わせていくことで信頼関係を高める効果があります。

 

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課長(部下):「結構意識しているんですが、年上の部下に厳しい言い方ができなくて、本当に困っているんです」

 

部長(上司):「その様子だとかなり困ってるみたいだね。年上の人に厳しく言うのは本当に大変だよね」

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ここでの返しのポイントは2つあります。

 

まず、「私もそう思う」という短絡的な同感を示すのではなく、相手の言い方や表情といった言葉以外から感じられる状態を正確に描写することです。つまり、「その様子だとかなり困ってるみたい…」というのは、「大変そうな様子が伝わっているよ」という相手へのメッセージになります。

 

次は、感情には感情で返すということです。相手の「困る」という言葉を返すのに、棒読みで「たいへんでこまるよね」と言われたら、相手は「本当にわかってくれてますか?」と疑問に思います。相手の感情の部分を返すとき、切り取る言葉以上に大事なのは、相手と感情を同調させることなのです。そうすると、相手は「わかってもらえた」「理解してもらえた」と安心することができます。

 

カウンセリングの場面ではこれを丁寧に行いますが、ビジネスの現場ではおろそかにされがちです。ですから逆に言うと、ここに意識を少し向けるだけでも効果は絶大ですし、これが少しでもできるマネジャーはこれから大変重宝されるでしょう。

 

【ポイント②】整理の返し――要約や確認を行い、気づきを誘発する

2つ目は「整理」の返しです。相手が早口で話の展開が速いときや、丁寧に話を進めたいときに活用します。「つまり、〇〇ということ?」「〇〇というと?」などのように、要約や確認を行い、相手の話を整理していくことで、気づきを誘発します。

 

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部下:「結構意識しているんですが、年上の部下に厳しい言い方ができなくて本当に困ってるんです」

 

上司:「なるほど。そう意識してるんだね。ちなみに厳しい言い方っていうのは?」

 

部下:「厳しい…というより、自分が思っていることをはっきり伝えたい、ですかね」

 

上司:「自分が思っていることが相手に『伝わらない』ことがすごく困ることなの?」

 

部下:「伝わらないというより、あっ、その前ですね。そもそも、自分が思っていることを言えてないっていうことです」←(気づき)

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この事例では、部下が最初は厳しい言い方ができないことが問題だと思っていましたが、言葉を整理していくことで、自分が思っていることを言えていないことが問題だと明確になっていきました。このように、キーになりそうな言葉を切り取って、その人なりに言葉や意味を整理するときに効果があります。

 

というのも、私たちは、いつも話をしている決まった内容については理路整然と話せますが、対話しながらその場で思いついたことを話すと、その内容は非常に曖昧になりがちです。

 

そのうえ、話のテーマがモヤモヤと悩んでいることであれば、まだ考えが明確になっていないでしょう。発話してみて、その言葉を相手に返されて整理されながら、自分の中で考えがクリアになっていくのです。つまり、話しながら内省する状態になります。そこから自分の考えを改めて深く理解できたり、新たな気づきが生まれたりするのです。

 

【ポイント③】肯定の返しと反転の返し――思い込みに新しい意味を見出してもらう

3つ目は、「肯定と反転」の返しです。肯定も反転も、相手の話を元に加工して返していきます。そうすることで、相手の思い込みに対して、新しい意味を見出してもらいます。

 

肯定は、相手の話の肯定的な側面に焦点を当てて返すことです。とくに相手の良い部分については、強調、あるいは声のトーンを高めるなど、増長して返してあげるようにします。そうすることで、相手の認識以上に良いことなのだという意味を伝えます。

 

反転は、「リフレーミング」とも呼ばれ、相手の言っていることを別の側面から見て伝えることです。たとえば次のようなイメージです。

 

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相手:「マネジメントが全然できてないんです」

 

自分:「全然できていないのか。ちなみに、マネジメントっていうのは?」←(整理)

 

相手:「うーん、1on1もスキップしてますし、じっくり話ができてないですね」

 

自分:「なるほど。逆に言うと1on1ができてないだけで、他はできてるところあるっていうこと?」(反転)

 

相手:「まぁ、そりゃできているところもありますよ」

 

自分:「なんだ、うまくいってるところもたくさんあるんじゃない」←(肯定)

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このように反転と肯定の返しをすることで、「マネジメントが全然できていない」という思い込みから「マネジメントができている」という逆の認識に立つことができます。そのうえで、まだできていない一部の課題に対して、前向きに取り組む状態をつくることができるのです。

「ついしゃべってしまう」の構造

今まで見てきたように、相手の話を返すことで、相手は「つい」しゃべってしまうのです。これは、どのような構造かというと、図表2のように、話し手が自分でもまだ見えてない無意識領域に、どんどん虫食い穴が開いていく状態です。

 

イラスト:加納徳博 出所:世古詞一著『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(日本能率協会マネジメントセンター)
[図表2]無意識領域の虫食い イラスト:加納徳博
出所:世古詞一著『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(日本能率協会マネジメントセンター)

 

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Aさん:「昨日、部長に呼ばれて2人で話したんですよ」

 

課長:「えっ、部長と2人で話したの?」

 

Aさん:「そうなんですよ。そうしたら、やっぱりいろいろ詰められて、もう会社辞めたくなりました」

 

課長:「えぇっ! そこまで追いつめられたんだ…」←(共感)

 

Aさん:「そうなんですよ。本当に転職も考えたんですけど、今何やりたいのか冷静に考えたら出てこなくて……」

 

課長:「そうか、いったん冷静に考えてみたんだね。そうするといろいろ気づきそうだね」←(整理)

 

Aさん:「はい。冷静になって考えたら、何がやりたいかもそうなんですけど、妻のこととか家のこととか全然考えられていませんでした」

 

課長:「あぁ、そうだよね。自分だけの話じゃないものね」←(整理)

 

Aさん:「そうですね。改めて将来のことをしっかり考えなきゃな、と思いました」

 

課長:「たしかに良い機会だから将来キャリアについて一緒に考えていこうよ」←(肯定)

 

Aさん:「ありがとうございます。改めてお話できてスッキリしました」

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このように、話し手はしゃべっているうちにどんどん思いつきを得ていきます。そうすると無意識領域が虫食いされていき、それを自分で俯瞰することで「あー、ここが一番気になっていたんだ」と気づくことができます。

 

また、虫食い穴が開いていくことで、たくさんしゃべることができます。そうすると「たくさん話せてスッキリした」と、ことさら問題を「解決」しなくても、問題が「解消」されていきます。逆に言うと、上司がいつもの問題解決モードで接すると、部下が自分で問題を解消させたり、自己解決する機会を妨げてしまうのです。

 

つまり、じっくり対話する場での上司の役割は、まず部下にしゃべってもらうことで、まだ空白の部下の頭(心)の中に、虫食い穴を開けていくことです。そこにこそ価値があるのです。しかし、多くの上司は、部下の話をただ返していくことに価値を見出せず、「上司として何か価値を発揮せねば」とつい上司ばかりがしゃべってしまうという構図になるのです。今一度、部下にしゃべってもらうことにこそ価値があるということを念頭に置いて、対話をしてみましょう。きっとマネジメントのパラダイム転換が起こるはずです。

 

 

世古 詞一(せこ・のりかず)

組織人事コンサルタント

1on1コミュニケーションの専門家

 

1973年生まれ。千葉県出身。組織人事コンサルタント。1on1ミーティングで組織変革を行う1on1マネジメントの専門家。早稲田大学政治経済学部卒。

Great Place to Work® Institute Japan による「働きがいのある会社」2015年、2016 年、2017 年中規模部門第1位の(株)VOYAGE GROUP の創業期より参画。営業本部長、人事本部長、子会社役員を務め、2008年独立。コーチング、エニアグラム、NLP、MBTI、EQ、ポジティブ心理学、マインドフルネス、ストレングスファインダー、アクションラーニングなど、10以上の心理メソッドのマスタリー。個人の意識変革から、組織全体の改革までのサポートを行う。

著書に『シリコンバレー式 最強の育て方 人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング』(かんき出版)がある。

 

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※本連載は、世古詞一氏の著書『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。

対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術

対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術

世古 詞一

日本能率協会マネジメントセンター

部下の成長が促進され、成果が上がり、従業員エンゲージメントが高まる!1on1ミーティングの第一人者が、組織で必要な上司と部下の対話の「型」を大公開。 近年、組織における対話の重要性が叫ばれ、1on1ミーティングを実施…

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