(※写真はイメージです/PIXTA)

相続対策と聞くと、「自分には関係ない」「親族との関係性を疑われている」と思う人は多いかもしれません。しかし、実際の相続の現場では、予期せぬ展開となるケースも少なくないのです。本記事では、思わぬ相続トラブルによって老後破産の危機に陥ったAさん夫婦の事例とともに、FPオフィスツクル代表の内田英子氏が、相続を踏まえた老後生活設計の注意点について解説します。

実は、実家を引き継げる可能性もあった!?

結果的に実家を売却せざるをえなかったAさんですが、実はAさんには実家を引き継げる可能性もありました。

 

お母様からの相続財産は、自宅不動産とわずかな預貯金をあわせておよそ4,000万円だったそうです。お父様はすでに他界されています。法定相続人はAさんと妹の2人で、相続税の支払いはなかったそうです。法定相続分はそれぞれ2分の1ずつでした。

 

一方、相続発生時、Aさんの資産はおよそ1,200万円でした。現役時代は高所得だったAさんですが、もともと趣味が多く、妻に渡す生活費を除いて働いて得た収入のほとんどを自由に使っており、退職金をのぞいて準備できていた老後資金は多くありませんでした。

 

また、相続でもめることもまったくの想定外だったため、相続のための準備もされていませんでした。Aさんが妹に分割分を支払い、実家を相続するという方法もあったようですが、Aさんにとってそのような選択を行うことは困難だったそうです。

 

裁判所の「令和4年 司法統計年報(家事編)」によれば、遺産分割事件の容認・調停成立件数のうち、遺産価額1,000万円以下がおよそ3割を、遺産価額1,000万円超5,000万円以下がおよそ4割を占めており、およそ4分の3が遺産価額5,000万円以下の相続で発生しています。

 

裁判所「令和4年 司法統計年報(家事編)」より著者作成
[図表1]遺産分割事件(家事調停・審判)の容認・調停成立件数の遺産価格割合 裁判所「令和4年 司法統計年報(家事編)」より著者作成

 

一方、遺産分割事件のうち、当事者の数に関する統計を見てみると、当事者数が2人のケースが29%、3人のケースが27%を占め、およそ56%が3人以下で発生しています。

 

裁判所「令和4年 司法統計年報(家事編)」より著者作成
[図表2]遺産分割事件の当事者の数の割合 裁判所「令和4年 司法統計年報(家事編)」より著者作成

 

Aさんのように不動産を相続する場合は、基本的に分割できない点や現金化に時間がかかる点にも留意すべきでしょう。一度トラブルになると長引くケースも目立ちます。遺産総額や相続人の人数に関わらず、相続の準備をしておくことは大切です。

 

老後は資産の取り崩し期にあたります。それまでに築いてきた資産を活用していくことが求められます。準備をしていればご自身の晩年の選択肢を増やすことができていたかもしれないことを思うと、悔やまれてなりません。

 

 

内田 英子
FPオフィスツクル
代表

 

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