(※写真はイメージです/PIXTA)

相続対策と聞くと、「自分には関係ない」「親族との関係性を疑われている」と思う人は多いかもしれません。しかし、実際の相続の現場では、予期せぬ展開となるケースも少なくないのです。本記事では、思わぬ相続トラブルによって老後破産の危機に陥ったAさん夫婦の事例とともに、FPオフィスツクル代表の内田英子氏が、相続を踏まえた老後生活設計の注意点について解説します。

実家の相続をあてにしていた60代夫婦

Aさんは69歳、地方都市で妻と二人暮らしです。もともとは生涯現役でありたいと考え、複数の医療機関に勤務し、忙しい日々を送っていました。しかし、持病により67歳で退職することに。

 

Aさん夫婦は賃貸マンションで暮らしており、所有する不動産はありませんでした。というのも、働いているあいだは転勤が多かったためです。

 

「新たな土地で住宅を購入しなくても、妹は県外の戸建てに家を買っているし、将来は母親が所有する実家に戻って自分たちが引き継げばいいだろう。母親もきっと喜ぶだろうから」と内心実家の相続をあてにしていました。

 

思いがけず早まった年金生活のスタートに、夫婦二人でなんとか節約しながらがんばろう、と支え合いますが、年金収入からの家賃の支払い負担が思ったよりも大きく、物価高のなか貯蓄を取り崩す日々が続きます。

 

「実家で一緒に暮らせないか母さんに相談してみようか」慣れない節約生活に疲れ果て、そんな風に話していた矢先、事態が大きく動きます。

 

母の急逝で、妹夫婦がまさかの行動に…

離れて暮らしていた入院中の母が急逝したのです。そして葬儀のあと、これまで疎遠にしていた妹夫婦が突然弁護士をたて、遺産分割調停を申し立ててきました。なぜ話し合いもないまま、突然調停に?とわけのわからないAさんは混乱しますが、対応せざるをえません。

 

結果として、実家に住みたいというAさんの願いは叶わず、実家を売って遺産分割することとなりました。

 

実家になかなか買い手がつかないなか、追い打ちをかけるようにAさんが住むマンションの管理会社から手紙が届きます。住んでいるマンションの区域で再開発の話が出ており、立ち退きをしてほしいというものでした。

 

2年間の調停を経てAさんは71歳です。老後資金も心もとないなか、高齢で賃貸できる場所も限られています。Aさん夫婦の暮らしは一転しました。

 

「この年で路頭に迷うとは……。この先、不安しかありません」Aさんは嘆きます。

上乗せの「厚生年金」には限度額がある

Aさん夫婦の年金額は毎月手取りでおよそ28万円です。退職後は生活費を見直し、節約していましたが、毎月の平均支出額はおよそ32万円。毎月約4万円、年間50万円程度貯蓄を取り崩していました。

 

公的年金は終身年金を受給できる、という点が特長の1つですが、ご自身がいくら受給できるかは、基本的に加入していた公的年金の種類とそれまでの年金保険料の支払い記録にもとづきます。

 

基礎年金に上乗せして会社員・公務員の方が加入できる厚生年金は、別名「報酬比例」ともいわれ、原則報酬額に応じた保険料の支払いとそれにもとづく年金額が支給されます。

 

保険料算出の計算式に組み込まれる報酬額には上限があり、年金保険料の負担は一定の報酬額を超えると一定となりますが、現役時代の収入額と年金受給額の乖離は徐々に大きくなる傾向にあります。

 

したがって、老後も生活水準を維持したいと望まれる方ほど、老後生活資金の準備が必要となります。

 

妻は遺族年金にも要注意!

Aさんのように長く世帯主の扶養に入っていた配偶者を持つ場合は、公的年金の遺族給付についても留意しておきたいところです。老齢厚生年金を受給していた方に万が一があった場合、残された配偶者が受け取れるのは遺族厚生年金で受給には条件があります。

 

本人の受給額と同額を受け取れるわけではありませんから、世帯主の万が一の際、残される配偶者の生活設計も大切です。
 

 

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