シンガポールのイーストスプリングは東証の改善要請を評価
シンガポールのバリューファンドのイーストスプリングは、2023年8月の情報提供資料「日本株投資:条件は整ったか?」で次のように述べています。
・日本株の2023年6月末のPERは過去10年平均並みの約14倍だが、CAPE(景気調整PER)は依然として過去平均を下回る水準にある。
・PBRは日本株が1.5倍と、欧州株の1.9倍や米国株の4.3倍より割安だ。日本株のバリュエーション水準は超格安というよりは魅力的な水準と評価している。
・東証は2023年1月にPBRの低迷が続く企業に対して、バランスシートの改善計画を開示するよう勧告し、日本企業への圧力を強めた。我々は、コスト削減やリストラを発表する企業が増えることをポジティブに見ている。
・日本は「横並び文化」が根付いているため、経営陣の多くは東証の目標に沿うようモチベーションを高め、将来的に株主重視の姿勢を強めると予想される。
・東証からの改善要請の後押しとは別に、日本企業はアクティビストの動きの活発化からも圧力を受けている。株主からの積極的な経営関与は、経営陣の質の向上をさらに促進する。
・日本企業の約半数はPBR1倍割れで取引されており、非金融企業においては手元資金から有利子負債を差し引いたネットキャッシュが自己資本の20%を超える企業の割合が約4割に達している。このことは、自社株買いが勢いを増すなか、投資家にとって魅力的な投資機会が豊富にあることを示唆する。
・日本企業が株式持合を半減させ、ネットキャッシュ÷株式時価総額が欧州並みの水準になれば、ROEを現在の8〜9%から11〜12%に改善できる。PBRも調整され、欧州並みの水準に向上しよう。
・日本企業はデフレ環境、資本配分や事業ポートフォリオの焦点不足、業界内の統合不足のため、営業利益率が低い傾向にあった。
・日本がデフレから脱却するための最高のチャンスが到来している。インフレ率が40年ぶりの高水準へ上昇するなか、個人投資家は資産価値を守る必要性に気づき始めている。
・日銀の金融政策の正常化が日本株の長期投資を損なうとは考えておらず、長期的な構造的追い風が数多くあるため、日本株は底堅いだろう。
英国のGLGも「日本株式会社を大きく変えるきっかけ」と評価
英国の上場運用会社のマングループ傘下のGLGはバリュー株運用を信条にしています。その運用拠点はロンドンではなくヨークにあり、コロナ前には私も度々ロンドンから電車で訪問していましたが、2023年3月にHP上で「This Time Is Different:Japan Value and Corporate Governance」との見方を掲載しました。その内容は以下のようなものです。
・TOPIXの株式の約半分が簿価以下で取引されており、この比率は20年前と同じだ。これに対して、S&P500企業のPBR1倍割れは3%しかない。
・一般的にバリュー株はグロース株より、割安に取引されている。そのため、低バリュエーションの企業をターゲットにした東証の施策は、バリュー株の恩恵になる。ラッセル野村トータル・バリュー指数の組入銘柄の65%がPBR1倍割れになっているのに対して、ラッセル野村トータル・グロース指数の場合は組入銘柄の6%だけである。
・銀行、エネルギー、鉄鋼のような典型的なバリュー業種の9割以上がPBR1倍割れとなっている。
・PBR1倍割れ企業のROEは低い。PBR1倍割れの企業は、資本コストを上回るROEを達成する必要がある。ベンチマークとなる資本コストは8%だ。東証プライム企業で8%未満のROEの企業は48%に達する一方、S&P500企業でROE8%未満は13%に過ぎない。
・日本企業がROEを改善する施策としては、①余剰資金や政策保有株式の削減、②事業の収益性改善、③コア事業にフォーカスし、低採算の子会社を減らすことが挙げられる。
・基調的な収益性を改善するためには、コスト構造やビジネスモデルの変革など長期的な仕事が必要になる。一方、現金を減らして、自社株買いを増やすことは短期間に簡単にできる。
・日本の過去の株主価値を増やすためのコーポレートガバナンス改革の成功は限定的だった。しかし、2023年の東証の低PBR改善要請は、日本株式会社を大きく変えるきっかけとなり、より良いコーポレートガバナンスが達成されるかもしれない。
菊地正俊
みずほ証券エクイティ調査部チーフ株式ストラテジスト
※本記事は『低PBR株の逆襲』(日本実業出版社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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