●東証は昨日、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示状況資料を公表。
●プライム市場では企業改革の進展が確認されたがスタンダード市場では進展がかなり遅い状況。
●当面は開示の進捗が株価の好材料に、ただ次第に開示した内容の成果が求められるようになろう。
東証は昨日、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示状況資料を公表
東京証券取引所(以下、東証)は1月15日、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況の資料を公表しました。対象企業は、プライム市場上場企業とスタンダード市場上場企業で、開示状況の判断は、今回の集計時点(2023年12月末)で直近に提出されたコーポレート・ガバナンス(CG)報告書において、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」という文言があれば開示済みとされます。
また、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(検討中)」という文言があれば検討中として集計され、いずれの文言もなければ一覧表には掲載されません。東証は昨年8月にも一度、開示状況の資料を公表していますので(ただし企業名は公表せず)、今回のレポートでは、当時の資料と比較しつつ、企業の開示状況の進展を確認し、そこからみえてきたポイントをまとめます。
プライム市場では企業改革の進展が確認されたがスタンダード市場では進展がかなり遅い状況
具体的な開示状況をみると、プライム市場上場企業(1,656社)のうち、開示済みが39.9%、検討中は9.4%、記載なしは50.8%でした。なお、昨年8月の資料は3月期決算企業のみを対象としていましたが、今回も3月期決算企業のみを対象としたデータが公表されたため、比較してみると、開示済みは19.6%から47.8%に増加、検討中は11.1%でほぼ変わらず、記載なしは69.3%から41.1%に減少し(図表1)、企業改革の進展が確認されました。
スタンダード市場上場企業(1,619社)は、開示済みが11.8%、検討中は6.7%、記載なしは81.5%でした。プライム市場と同様、3月期決算企業のみを対象として、昨年8月の資料と比較した場合(図表2)、開示済みは3.6%から13.1%に増加、検討中は9.9%から8.1%に減少、記載なしは86.5%から78.8%に減少しました。企業改革は進展しているものの、プライム市場に比べかなりペースが遅いことが分かります。
当面は開示の進捗が株価の好材料に、ただ次第に開示した内容の成果が求められるようになろう
東証によると、株価純資産倍率(PBR)が低く時価総額が大きい企業ほど開示が進んでいる一方、PBRが高く時価総額が小さい企業の開示は相対的に進んでいない状況が続いているとのことです。低PBRの前者は、より切迫した状況のため対応を急いだと思われ、後者も今後、開示が進むと考えていますが、目先は開示の有無で、株価に顕著な差が生じるか否かが焦点となります。
トヨタ自動車などの一部大手企業は今回、開示なしとされましたが、東証指定の文言がなかっただけで、実質的に株価を意識した経営を実施しているところもあり、個別に状況を確認する必要があります。一覧表は今後、毎月公表され、当面は開示の進捗が好材料になるとみていますが、時間の経過につれ、開示通りに資本効率が改善したか、成長戦略に沿って事業が展開されているかなど、具体的な成果が求められるようになると思われます。
(2024年1月16日)
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。また、文中の数字は四捨五入の関係で合計が100%にならない場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『当面は「開示の進捗」が株価の好材料に 東証の「株価向上策の開示企業」リストからみえてきたこと【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジスト】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト
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