景気ウォッチャー調査
~23年8月から11月は「地震or震災」関連のコメントはゼロだったのに…
元日に能登半島地震が発生するという大波乱の新年の幕開けになりました。被災された方々へ、心からお見舞い申し上げます。能登半島地震の被災地の1日でも早い復旧・復興を祈念いたします。
23年は景気ウォッチャー調査で「地震or震災」のコメントは極めて少なく、とりわけ8月調査から直近の11月調査にかけては4回連続で現状判断・先行き判断とも「地震or震災」に関するコメントはゼロでした。23年は台風などの発生数・上陸数も少なく、自然災害に対して安心していたところ、24年は元日から大きな地震が発生してしまいました。
内閣府「景気を把握する新しい指数」で振り返る、23年の景気
~もたついている指標は多いが、トレンドとして景気は上向き
内閣府が22年8月22日から公表している指標に、「景気を把握する新しい指数(一致指数)」があります。この指数は、経済の相対的な量の変動を反映するためカバー範囲が広く、生産(供給)、分配(所得)、支出(需要)の三面、」全17系列から構成される指数です。
23年は景気回復が続いていたとみられるものの、実質賃金・前年同月比は10月まで19ヵ月連続マイナス継続、実質GDPでも個人消費と設備投資が4~6月期と7~9月期と2四半期連続で前期比マイナスになるなど、7~9月期・法人企業統計で経常利益が過去最高となっているにもかかわらず、もたついている指標が多くパッとしない状況でした。
しかし、経済の総体的な量の変動を反映する「景気を把握する新しい指数(一致指数)」の3ヵ月移動平均をみると、23年1月を底に2月から10月まで9ヵ月連続上昇していることがわかります。トレンドとして景気は上向きです。
10月では、営業利益(第二次産業)が8ヵ月連続前月差上昇、営業利益(第三次産業)が11ヵ月連続前月差上昇で、企業収益がしっかりしていることが確認できます。また、無形固定資産(ソフトウエア投資)が11ヵ月連続前月差上昇でDX投資が着実に出ていることがわかります。10月の前月差寄与度が+0.62になった実質サービス輸出からはインバウンド消費の強さがわかります。
景気動向指数の基調判断
~23年4月以降12月までは、景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」の見込み
景気動向指数の基調判断は、23年4月改定値で景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」に、それまでの景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」から、上方修正されました。その後5月~10月では速報値、改定値とも「改善」になり、7ヵ月連続「改善」となっています。
1月11日に発表される11月景気動向指数・速報値では一致CIが4ヵ月ぶりの前月差下降になるとみられます。しかし、景気の基調判断は8ヵ月連続で「改善」になると予測されます。景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」に下方修正されるための条件は、「当月の前月差の符号がマイナス」かつ、「3ヵ月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1ヵ月、2ヵ月または3ヵ月の累積)が1標準偏差分(1.16)以上」です。一致CIの前月差は▲1.4程度の下降が予測されますが、その場合には3ヵ月後方移動平均の前月差が▲0.30程度のマイナスにとどまると予測され、2ヵ月の累積はプラスに、3ヵ月の累積は小幅マイナスにとどまるため、11月では景気の基調判断は「改善」が維持される可能性が高いとも思われます。
12月はどうでしょうか。一致CI採用第1系列の生産指数(鉱工業)の先行きを製造工業予測指数でみると、12月前月比+6.0%の上昇の見込みです。なお、過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、12月の前月比は先行き試算値最頻値で+3.2%の上昇になる見込みで、90%の確率に収まる範囲は+1.8%~+4.6%となっています。12月の生産指数は前月比上昇になると予測されます。なお、安全性試験での不正が発覚し、生産停止が発表されたダイハツ工業の影響は、製造工業予測指数には反映されていません。
生産指数からみて、12月の一致CIの前月差はプラスになる可能性のほうが大きそうで、景気の基調判断は「改善」にとどまると思われます。
1月の景気基調判断はどうなる?
~「改善」継続か、「足踏み」に下方修正されるか要注目
11月の景気動向指数・先行CIは3ヵ月連続で前月差下降になるとみられます。先行きの景気に不透明感が出てきたことを示唆する数字です。
1月の製造工業生産予測指数は前月比▲7.2%の低下の見通しです。これにダイハツ工業の生産停止、能登半島地震の影響といった下振れ要因が加わることになります。1月の一致CIは生産関連中心に前月差下降になる可能性が大きいとみられます。一致CIの前月差は11月▲1.4、12月+1.0、1月▲2.0になると仮定すると、一致CIの3ヵ月後方移動平均前月差3ヵ月の累積が▲1.17と1標準偏差分(1.16)以上の下降になるため、このケースでは景気の基調判断が「足踏み」に下振れとなってしまいますが、「改善」が継続する可能性も十分考えられます。3月8日発表予定の1月の一致CIが注目されるところです。
「助け合いの気持ち」は景気にもプラスに働くことが期待される
~東日本大震災があった2011年、阪神淡路大震災があった1995年は景気後退「回避」
能登半島地震の影響が懸念されるところですが、東日本大震災の2011年、阪神淡路大震災の1995年とも景気後退は回避されました。2011年の「今年の漢字」は「絆」で、2~4位の「災」「震」「波」を抑えて1位になりました。5位~10位は「助」「復」「協」「支」「命」「力」と前向きな漢字が多かったのです。
全国高校サッカー選手権では石川県の星稜高校が1月2日、3回戦で市立船橋と対戦しましたが、地震で地元からの応援団が来られなくなってしまいました。しかし、日刊スポーツによると、SNS投稿を見た、日大藤沢、仙台育英、名古屋、岡山学芸館など他校の部員たちや有志の人たちの選手たちへの大声援が鳴り響いたということです。日大藤沢の部員たちが黄色いゴミ袋を上半身に被り星稜カラーになって応援し、対戦相手の市立船橋も野球部と女子バスケットボール部から調達したメガホンを貸し出しました。
人々の助け合いの気持ちが広がれば、被災地の復旧・復興の支援につながり、景気にもプラスに働くことが期待されます。
※本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。
宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)
三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。 さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。 23年4月からフリー。景気探検家として活動。 現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。