両親と最愛の妻を亡くした鈴木さん…孤独感から“豹変”
1日の会話が「レジ袋はいりますか?」「いや、いい」だけの日も
10年間サービスを頼りながら介護を続けたのち、妻と両親を相次いで亡くした鈴木さん。鈴木さんは突然“独り”になってしまいました。そして、いつの間にか親しい友人とすっかり疎遠になっていたことに気づいたのです。
1日の会話が、スーパーへ行った際「レジ袋は必要ですか?」と声をかけられたときの「いや、いい」だけの日もあります。
かといって、いまさら友人に連絡することもはばかられます。寂しさや孤独感を募らせた鈴木さんは、しだいに「お店に行けば店員が話してくれる」と、買い物が日課になっていきました。
店員から「いらっしゃいませ」と声をかけられ、会計後に「ありがとうございました」とあたたかい笑顔を向けられるとうれしくなります。
さまざまな店舗に通うようになり、ときどき店員との会話が弾むと、興味のないものでもつい買ってしまうようになりました。
当初は高額なものは避けていたのですが、特に百貨店の接客が素晴らしいと感じた鈴木さんは、やがてクレジットカードを使ってブランド品も購入するようになりました。店員に顔を覚えられたのが嬉しくて、ひと月で50万円以上使ったことも。
ついに貯蓄が底を尽き、生活に困った鈴木さん。「情けない」と思いながらも息子に連絡してみました。
「最近いろいろと物を買ってしまってな、貯金が底をついたんだ……。もう、買い物は控えるつもりなんだが……すまん、金を貸してくれないか?」
堅実で贅沢しているイメージのない父親がなぜ!? 息子はひどく驚き、認知症や詐欺の可能性を疑いました。しかし、話を聞いていくうちに「買い物依存症じゃないか?」と気づき、実家へ出向いて詳しく話を聞くことにしたそうです。
老後、買い物依存症に陥る高齢者は少なくない
「買い物依存症」は正式な病名というわけではありませんが、お金を使うことをコントロールできなくなってしまう状態のことを指します。買い物依存症に陥った人は、うつ病など他の病気が起因していることも少なくありません。買い物依存症から多重債務となり、自己破産へ発展してしまうケースも存在するのです。
厚生労働省広報誌『厚生労働』2019年5月号によると、日本でギャンブル等の依存症が疑われる人数は約70万人おり、これらの約4割が高齢者だといわれています。身寄りのない高齢者にとって、依存症は誰しも他人事ではありません。