(※写真はイメージです/PIXTA)

分掌変更とは、代表取締役や取締役が会長や監査役に退きながらも引き続き会社に在職することです。役員退職金を経費に落とすだけで、形式上は分掌変更しようとする企業は少なくありませんが、分掌変更に伴う役員退職金が法人の経費として認められるにはいくつかの点に注意しなければなりません。本記事では、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)から、事例をもとに分掌変更に伴う役員退職金の取り扱いについて解説します。

新代表は前代表の助言に「従った」ため、退職給与に該当しない

(国の主張)

次のとおり、Aの分掌変更について、Aの役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあったとは認められないことから、本件金員は法人税法34条1項括弧書き所定の「退職給与」に該当しない

 

1 Bは、代表取締役に就任した当時、代表取締役の業務遂行に必要な知識及び経験を有していなかったことから、経営体制の移行を円滑なものとするため、Aが、引き続き代表取締役退任前と同様に経営上主要な地位を占めながら、Bに対する指導及び育成を行うこととなったものである。

 

そうすると、Aが、代表取締役退任後、Bに助言等をすることとなったのは、単なる引継ぎではなく、経営判断そのものを行うことが想定されていたのであり、Aは、経営について引き続き責任を負っていた。

 

2 上記1のとおり、Bは、代表取締役就任後、単独で経営全般について判断し実行する知識等を有していなかったため、あらゆる場面でAの助言、提案等を必要としていたのであり、実際、Aは、代表取締役退任後も、個別の稟議案件を確認して稟議書の「相談役」欄に押印するなど、Xの経営情報に接して判断をしていたほか、人事や予算等についても、Bから相談を受けて方策について提案をするなどしていた。

 

このように、Bは、あらゆる場面でAに助言や提案を求め、それに従っていた

 

3 Xの取引銀行の担当者は、部内の引継書類にAを「実権者」と記載しており、実際、Aは、代表取締役退任後も、多数回にわたり取引銀行の担当者と融資や設備投資に関する交渉を行っていた。

 

また、Bは、Aの代表取締役退任後、Xの親会社からの資金調達の要求などについてAに相談をすることができたため、Aが親会社に対しての防波堤の役割を果たしてくれたと評価しており、Aは、親会社との関係においても、Bではなし得ない判断等を行っていたことがうかがえる。

 

このように、Aは、取引銀行及び親会社との関係からみても引き続きXの経営上主要な地位にあり、その役割を果たしていた。

 

4 Bは、代表取締役就任後も、その業務に加えて営業部長の業務を継続しており、営業で外出している割合が4割ほどで、かつ、入社以来営業職しか経験したことのないBにおいて、数ヶ月でAからの引継ぎが終了し、代表取締役という職務を残された時間で単独で全部こなしていたとは想定できない。

 

5 Xは、上記7のとおり主張するが、Xが、何をもって本件事業年度中に引継ぎが完了したとするのかは明らかでなく、その時期についても一貫性がない上、Aが、本件事業年度以降も、

 

1.稟議書の「相談役」欄に押印し、必要に応じて助言等をしていたこと

2.代表者会議に出席していたこと

3.多数回にわたり取引銀行の担当者と交渉や面談をしていたこと

 

等からすれば、Aの退職の事実が本件事業年度末までに具備されたとするXの主張は、その前提を欠いている。

 

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※本連載は、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)より一部を抜粋し、再編集したものです。

税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方 2法人編

税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方 2法人編

伊藤 俊一

ぎょうせい

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