(※写真はイメージです/PIXTA)

分掌変更とは、代表取締役や取締役が会長や監査役に退きながらも引き続き会社に在職することです。役員退職金を経費に落とすだけで、形式上は分掌変更しようとする企業は少なくありませんが、分掌変更に伴う役員退職金が法人の経費として認められるにはいくつかの点に注意しなければなりません。本記事では、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)から、事例をもとに分掌変更に伴う役員退職金の取り扱いについて解説します。

「助言」であって「意思決定」をした訳ではないので、退職給与に該当する

(Xの主張)

次のとおり、Aの分掌変更について、Aの役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあったと認められることから、本件金員は法人税法34条1項括弧書き所定の「退職給与」に該当する

 

1 Aは、代表取締役の交代について適法な手続を経た後、Bを伴って取引関係者を回り、退任の挨拶及び社長交代の引継ぎの挨拶に連日出向いており、退任の挨拶状も取引関係者に送付されている。

 

また、Xが契約当事者となっている土地の賃貸借契約書やXと銀行との間の金銭消費貸借契約書の代表者の名義がBに変更され、銀行取引の連帯保証人もAからBに変更されている。

 

2 Aの月額報酬は、代表取締役退任前の205万円から約3分の1に相当する70万円に激減しており、法人税基本通達9-2-32(3)(役員の分掌変更等の場合の退職給与)における役員の給与の激減に係る基準も充足する上、Bの月額報酬は85万円であり、Aの月額報酬とは大きな差異があることからもAが退任前と同様の職務を行っていないことは明らかである。

 

3 Bは、代表取締役就任後、Aの指示や意見によらず、自らの判断でメインバンクの変更、実績管理及び人事評価等を行っていた。

 

4 Bは、代表取締役就任後、Xの幹部が集まる代表者会議の場で自ら判断し具体的な指示をしているが、他方、Aは、代表取締役退任前は必ず出席していた会議の一部にしか出席せず、また、何ら指示をしていない

 

5 Aが取締役として出社していたのは、Bへの引継ぎを適切に行うためである。また、BがAに様々な案件を相談して意見を聴くことは引継ぎに不可欠であり、Aが稟議書に相談役として押印していたのは、引継ぎのための相談や助言にすぎず、決裁をしたのは飽くまでBである。

 

6 Aが代表取締役退任後も取引銀行の担当者と面会をしていたのは、Bがトップセールスに注力する必要から会社を留守にすることが多いためであり、BはAに具体的な指示を出して対応を委ね、帰社後に報告を受けており、Aの当該面会は、飽くまで引継ぎに際しての補佐業務にすぎない

 

7 仮にAが代表取締役から取締役(相談役)に分掌変更した時点では「実質的に退職したと同様の事情」として十分な事情が認められなかったとしても、法人税法は、事業年度の所得に課税するという期間税の構造を採用しており、納税義務が事業年度終了の時に成立することからすれば、「実質的に退職したと同様の事情」は、事業年度末までに具備されれば足りるのであるところ、本件事業年度末までにAからBへの引継ぎが完了したという事実が存在する。

 

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※本連載は、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)より一部を抜粋し、再編集したものです。

税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方 2法人編

税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方 2法人編

伊藤 俊一

ぎょうせい

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