本連載は、弁護士・武内優宏氏の著書『おひとり様おふたり様 私たちの相続問題』(セブン&アイ出版)の中から一部を抜粋し、「おひとり様」の相続を巡るさまざまなトラブルを、具体的な事例を取り上げて解説します。

見つけることができない「あと1人の相続人」

【CASE1】相続人が多い相続では、行方不明の相続人も出てくる

 

●相談者 :佐藤みち子(仮名 57歳)

●被相続人:叔母(87歳、父の妹、子供なし)

●相続人 :叔母側甥姪(甥3人、姪2人)叔母の夫側の甥姪(甥2人、姪1人)

●相続財産:自宅マンション、預貯金

 

相談者の佐藤みち子さんは、先日、父方の叔母が87歳で亡くなったため、叔母の財産を相続することになりました。叔母は半年前に夫に先立たれ、子供はいません。さらに、夫の相続分の相続手続きもまだ終えていませんでした。

 

また、叔母側の兄弟はすでに亡くなっているために、佐藤さんを含め、叔母の兄弟の子供(甥姪)5人で相続をすることになりました。叔母は、夫の相続手続きをしようにも夫側の相続人を探すことができず、また高齢なため相続手続きをする気力もわからないまま、亡くなってしまいました。

 

叔母の夫の相続は継続しています。佐藤さんは叔母の相続をするためには、亡くなった叔母に代わって叔母の夫のすべての相続人も確定する必要があります。もちろん、叔母の夫側の親族とは会ったこともありません。佐藤さんは、叔母の年賀状や手紙から叔母の夫側の親族の手がかりを見つけて連絡をとり、2人までは探すことができました。しかし、1人だけどうしても見つけることができません。

 

叔母の夫側の親族もその1人とは何年も連絡をとっていないそうで、居場所はわからずじまいです。結局、佐藤さんは「相続人に居場所がわからない方が1人いるため、遺産分割ができないのですが、どうしたらいいでしょうか」と困られて相談にいらっしゃいました。

「老老相続」の時代、同様のケースはまだまだ増える!?

「ある相続人の居場所がわからない」行方不明の相続人がいるというケースは、「老老相続」ではよくあります。平成25年「簡易生命表(厚生労働省調べ)」によると、日本人の男性の平均寿命は80・21歳、女性は86・61歳と発表されました。社会の超高齢化にともない被相続人が高齢のため、相続人も高齢になるという老老相続が今後さらに多くなってくると思われます。

 

佐藤みち子さんのケースも、典型的な老老相続になります。さて、佐藤さんは叔母の相続をすることになったので、叔母の夫からの相続手続きも引き継ぐことになりました。叔母の夫側の兄弟姉妹、甥姪とは面識がないので見当がつかないのはもっともな話です。

 

もし、行方不明の相続人をご自身で探す場合、相続人であれば、市区町村で行方不明の方の戸籍を探すことができます。とはいえ、個人情報の問題もあるので、明確な理由を伝えないと断わられることもあります。このとき重要なのは、市区町村の担当者に「行方不明の相続人を探しているので」と、なぜ戸籍が必要であるのか、その理由を説明することです。

 

ただ、あまりにも縁が遠い相続人を探す場合、本来であれば戸籍を取得できるケースであるにもかかわらず、窓口で断られてしまったということもよく耳にします。

 

また、ご自身で戸籍を探すとなると、大変なこともあります。明治、大正、昭和初期の達筆な手書きの戸籍を読み解くのには時間がかかります。市町村も現在とは異なりますので、戸籍に書いてある市町村が現在のどこにあたるのかを調べる必要もあります。実際には弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に頼むほうが問題の解決が早くなります。

 

佐藤さんの相談は、「叔母の夫側の相続人が行方不明で遺産分割ができない」ということでした。士業(弁護士、司法書士、行政書士)には「職務上請求権」があり、戸籍や住民票を取ることができるので、行方不明の方を探しだすことができます。

おひとり様おふたり様 私たちの相続問題

おひとり様おふたり様 私たちの相続問題

武内 優宏

セブン&アイ出版

「自分が死んだあと、親族に迷惑は掛けたくない」。高齢者のおひとり様の相談では、口をそろえて皆さんがおっしゃいます。その不安を取り除くには、法律の知識を用いてさまざまな対策を考えて、実行していくしかありません。兄…

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